自民党の財政改革研究会(与謝野馨会長)が、当面の財政運営に関する提言をまとめた。「税制の抜本的な改革に向けて」の副題があるように、10年代半ばまでに消費税を全額、社会保障に振り向ける社会保障税(仮称)に改組した上で、税率は少なくとも10%程度まで引き上げることを提案している。
消費税率引き上げに際しては経済への悪影響を抑えるため段階的に実施することや、税負担が重くなる低所得層に配慮し軽減税率を設けることも必要だとしている。高所得層の所得税率引き上げや資産課税強化にも言及している。
歳出への踏み込みが十分ではないものの、中期的な方向としてはバランスが取れている。先進国中最悪の財政状況にあることを考慮すれば、財政健全化は最大の課題であり、「中福祉・中負担」は現実的な道であろう。また、社会保障水準の維持は国民の安全、安心の基礎であり、経済活性化の前提でもある。
ただ、この時点で政権党が求められているのは、09年度予算をどのように編成していくかである。具体的には、基礎年金の国庫負担引き上げを何でまかなうのか、そのために消費税率を上げるのか、さらに道路特定財源を一般財源化してどう使うのか、などを国民に示すことである。
数年前までは、景気拡大に伴う税収増で国庫負担増は対応可能との楽観的展望が、まことしやかに語られた。しかし、税収は06年度に続いて、07年度も伸び悩んでいる。この傾向は09年度には強まるであろう。
提言では基礎年金の国庫負担増をまかなう安定財源確保を打ち出しているが、これだけでは、何をやるのか国民にはわからない。また、税制抜本改正で年金や医療、介護など社会保障や少子化対策に要する安定財源確保の検討も求めている。これも、中期的視点からであり、09年度には間に合わない。
基礎年金の国庫負担引き上げには2兆3000億円の財源が必要になる。暫定的には特別会計の積立金や一般財源化された道路財源などでの充当も可能だろう。しかし、それも1、2年の話だ。消費税率引き上げとなれば準備期間も必要になる。当面、いつから、どれだけの引き上げがメドになるのか、10%に至る道筋はどうなのかなどを国民の前に示すことが責任ある政治の手法であるはずだ。
消費税に関しては、地方消費税の充実も盛り込まれている。社会保障税への組み替えとの整理はどうなるのか、明確にすべきだ。
道路特定財源問題でも、道路整備にどれだけを振り向けるのか、環境税創設との関係をどうするのかなど明確にすべき点が多い。
また、税財政問題は与党の専売特許ではない。野党も積極的に発言し、代案を示す時だ。
毎日新聞 2008年6月13日 東京朝刊