2008年06月12日
中国人民元高とインフレ圧力鈍化の嘘
むろん中国政府には現在、そこまでの人民元高を容認する姿勢は見られない。むしろ貸出、マネーといった“量”のコントロールに拘泥し、預金準備率を引き上げたり、銀行窓口指導を強化させているのが実情だ。だが、それにもかかわらず、貸出はいまだ年10%以上のペースで伸び続けている。とても金融引き締めと呼べるような施策には至っていないである。
そうこうしている間にも、将来の人民元高を当てにするホットマネー(熱銭)の流入が続いている。そして、そこに起きた四川大地震。被災地域の工場の多くが稼動停止したことなどから、今後時間をかけてCPIにさらなる上昇圧力がかかってくる可能性がある。FRB元幹部は「中国のインフレは制御不能の一歩手前」と警鐘を鳴らす。最悪のシナリオは、インフレに歯止めがきかなくなり、景気が急激に冷え込み、中国全土に社会不安が広がることだ。
インフレとドル安を恐れる米国
遠のく第2のプラザ合意
振り返れば、日本は、米国の対外不均衡解消を名目とした1985年のプラザ合意を経て、その後1年以内に対ドルの円レートが235円から120円台に上昇する急激な円高を受け入れた。巨額の対米貿易黒字を稼ぐ中国も同様に米国からの“外圧”によって急激な人民元高を受け入れざるを得なくはならないだろうか。
そもそも2005年7月の人民元切り上げは、対中貿易赤字拡大に痺れを切らしたブッシュ政権による外圧の成果であった。ブッシュ政権はその後も折に触れて中国の為替政策を批判し、人民元高の加速を求めてきた。ドル安局面で対外不均衡問題が再びクローズアップされる中、第2のプラザ合意はありえないのだろうか。
前出のFRB元幹部は、その必要性を認めながらも、「当面は期待薄」と断言する。「インフレに怯える米国は、一段のドル安が進むことに警戒感を強めている。中国が為替介入の結果溜め込んだ外貨準備はその過半が米国債で運用されており、さらなる人民元高を中国政府に強いれば、中国側が米国債を売り払うなどポートフォリオの大胆な組み換えに動きかねないとの懸念が米国政府内には強い」という。
米中政府は6月17日~18日に、米メリーランド州アナポリスにおいて、第4回戦略経済対話を開催する予定だが、前出の米財務省幹部は、「米国側からいっそうの人民元高の加速を強く求めることにはならない」と言い切る。かくして中国は牛歩戦術でインフレ退治に当たるお墨付きを得そうだ。
中国の為替政策の3原則は、「自主性」「制御可能性」「漸進性」。そこに市場メカニズムを尊重する姿勢はない。この唯我独尊の統制経済がソフトランディング(軟着陸)に失敗したとき、袋小路に立ちすくむのはほかでもない世界経済である。
(ダイヤモンド・オンライン副編集長 麻生祐司)
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