2008年06月12日
中国人民元高とインフレ圧力鈍化の嘘
この物価上昇の背景には、中国の為替政策の影響がある。周知の通り、中国当局は人民元の上昇テンポを緩やかにするため、ドル買い・人民元売りの為替介入を日常的に繰り返し、市中に大量の人民元を放出してきた。そのせいで、カネ余りが生じ、それが不動産や株に流れ、資産バブルが発生。原油や穀物など資源価格の上昇ともあいまって、深刻なインフレを招く結果となったのだ。
本来なら物価水準安定には金利政策をフルに活用すべきだが、為替レートへの影響を恐れるあまり思い切った利上げに動けない。また、そもそも中国には金利の上げ下げなどで資金需要を変化させる市場メカニズム、言い換えれば、金融政策のトランスミッション・メカニズムがまだきちんと整備されていない。それは、昨年、預金・貸出金利の引き上げを随時実施したにもかかわらず、大きな効果が出なかったことからも明白だ。とどのつまり、過剰流動性を是正し、なおかつ輸入物価の引き下げを促していくためには、為替介入を控えて、人民元高を容認していくほかはないのである。
対ユーロでは6%強下落
実態は元高ではなくドル安
問題は果たして現在の人民元高のペースでインフレ退治に効果があるのかどうかだ。2005年7月の人民元切り上げ以降の対ドルでの伸び率をみると、2006年が3%、2007年が7%と斬新的に加速している。今年は停滞前のペースでは一時期、前年比12%以上の勢いで上昇してきた。
しかし、欧米の為替問題専門家の見方は意外に冷淡だ。多くの専門家は、今のままでは、「焼け石に水」だと見ている。
彼らが問題視するのはユーロなど他の主要通貨に対する為替レート、さらに人民元の実効為替レート(主要な貿易相手国の通貨に対する総合的な価値を示す指標)で見た場合の伸び率の低さだ。
たとえば、05年7月の切り上げ以降の対ドルの伸び率は17.51%だが、対ユーロでは逆に6%強下がっている。昨年の人民元の実効レートの伸び率も5%にすぎない。すなわち「真相は元高というよりも、ドル安」(米外交問題評議会フェロー ブラッド・セッツァー氏)なのである。
IMFの元チーフエコノミスト、ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授も上昇テンポを不十分と見る一人だ。「為替レート変更が国内物価に影響を与えるまでにはかなりのタイムラグがあり、物価水準安定には本来は金融政策を重視すべき」と前置きした上で、「1ドル=5.5元への上昇が必要」と指摘する(「週刊ダイヤモンド4月19日号特集「為替がわかれば経済がわかる」)。
【子供を襲うネット・ケータイの罠】
子供の携帯電話の所持率が増加する中、携帯電話やインターネットでのトラブルが増加の一途を辿っている。犯罪に巻き込まれることも少なくない。その実態を追った「週刊ダイヤモンド」編集部総力特集
topics
- これが気になる!
- 安いマズイは昔の話 進化する最新「社食」事情
- 山崎元のマルチスコープ
- 1箱1000円たばこは一気に実現すべきだ
- 柏木理佳 とてつもない中国
- 中国の成長と変化が、日本に5年間の物価上昇をもたらす
- 野口悠紀雄が探る デジタル「超」けもの道
- アメリカ人は、日本、中国、ドイツの何に関心を持っているのか?
- Close Up
- 45年目で悲願のサッポロ逆転! サントリー「大安売り」の大顰蹙
刻々と動く、国内外の経済動向・業界情報・政治や時事など、注目のテーマを徹底取材し、独自に分析。内外のネットワークを駆使し、「今」を伝えるニュース&解説コーナー。