最近、複数の死傷者が出る通り魔事件が相次いでいたが、過去三十年では最悪と見られる事件が東京で起きた。死傷者十七人。白昼の歩行者天国での犯行とあって通行人らが直後の生々しい現場を撮影した映像もテレビ放映された。事件の一端がうかがえただけだが、あまりの残虐ぶり、むごたらしさに絶句した。
「身の毛のよだつ犯罪」―。五年前の四月、この欄に当時、津山で四件続いて発生した通り魔事件について書いた。その記事の見出しだ。夜、中高校生らが後ろから自転車で近づいてきた男に突然殴られるという似た手口。不幸中の幸いで大けがなどはなかったが、市民の受けた衝撃は大きく、不安な夜が長く続いたものだ。
犯罪史に大きく刻まれるだろう無差別殺傷事件の報道に接し、まず、その「身の毛のよだつ」感覚が、はるかに強烈な形でよみがえってきた。
夜より安全なはずの日中、人であふれた繁華街をパニックに陥れた通り魔事件は、安全・安心なまちを願うわれわれに難解な問題を突き付けているようにも思える。
有効な自衛策は―。見知らぬ人と接する際は襲われる可能性を念頭に置くのが出発点。極論だが、一番安心なのは人とじかに接しないことということになる。そんな発想は健全でないと思うが、わが子を守るため、父母の多くが「知らない人は信用しちゃだめ」と教えているのが悲しい現実だ。
人と人の信頼や結びつきが薄れて孤立する人が増えている、そんな社会が通り魔事件の背景にある―との指摘がある。そうならば安全・安心なまちは遠のく一方になる。
(津山支社・井谷進)