高梁市出身の映画評論家水野晴郎さんの訃報(ふほう)が入った。驚きとともに、一番に浮かんだのが「いやあ、映画って本当にいいもんですね」の決めぜりふだ。
長く担当したテレビの映画番組で使い、人気を得た。ひげをはやしたふくよかな顔にも親近感がわき、さも楽しそうな語り口で、映画の魅力に視聴者を引き込んだ。根っからの映画人であった。
東京を拠点としたが、故郷との縁は深かった。「映画の素晴らしさを知ったのは郷里の高梁」と常々口にしていたという。子どものころは終戦直後で、映画館だけが娯楽のともしびだった。「お金がなく、こっそり映画館に入り、つまみ出されたこともあった」と、当時の思い出話が本紙に載っている。
映画評論では飽き足らず、自らメガホンを握り、出演もした。「シベ超」で親しまれる「シベリア超特急」シリーズだ。込められているのは反戦の思いで、終戦を旧満州(中国東北部)で迎え、混乱に巻き込まれて苦労の末に帰国した戦争体験が根底にある。
シリーズ作品では、地元の風景を映画に収めたかったと、瀬戸大橋が登場し、瀬戸内海の美しさが描かれてもいる。岡山県内での講演も多く、古里への熱い思い入れを持ち続けた。
七十六歳の映画人生だった。もっと魅力を伝えてほしかったのに、残念だ。