民主党などが提出した福田康夫首相に対する問責決議が、参院本会議で野党の賛成多数により史上初めて可決された。与党は対抗して衆院に内閣信任決議案を提出し、十二日の本会議で可決させる方針である。
問責決議は、野党側の福田内閣拒絶を意味する。民主党は衆参両院で審議拒否に入る。日・東南アジア諸国連合(ASEAN)経済連携協定の自然承認を図るため、今国会の会期は二十一日まで六日間延長されるものの、審議拒否を続ければ実質的に幕を閉じたに等しい。十一日に予定されていた福田首相と小沢一郎民主党代表による党首討論は取りやめになった。
民主党は問責決議案の提出を見送る方針だったが、小沢氏が再考を指示し状況が一変した。問責理由に野党が廃止法案を提出した後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の廃止に首相が応じないことや年金記録不備問題での対応などを挙げ、衆院解散・総選挙を迫っている。対決姿勢を鮮明にしたが、首相は問責決議に法的拘束力はないとして、内閣総辞職や衆院解散には応じない考えだ。
問責決議は、民主党などにとって首相を追い詰める「伝家の宝刀」とされていた。「抜くぞ、抜くぞ」と声高に叫んでいたが、このタイミングでついに抜いたものの、解散につながらないようでは宝刀が無駄になろう。判断間違いではないだろうか。
今国会では衆参で与野党勢力が逆転した「ねじれ」を背景に党利党略が目立った。あおりで積み残された課題は多い。
揮発油税など道路特定財源の暫定税率が廃止され、すぐ復活した。国民生活が混乱した上、二〇〇九年度からの道路特定財源の一般財源化を閣議決定しながら衆院再可決によって十年間の制度維持を決めた矛盾が置き去りになり、一般財源化した場合の使途も決まっていない。
長寿医療制度にしても、与党側が主張する制度見直しでよいのか、民主党がいうように一度廃止すべきなのか、与野党が正面から本質的な議論をぶつけ合う必要があった。
論戦の重要な機会が党首討論だったはずだ。中央省庁の職員が公費でタクシーに乗りながら運転手から金品を受け取っていた問題や、相次ぐ通り魔事件への対応などについても議論を聞きたかった。
自民、民主両党が駆け引きに終始したのは次期衆院選をにらみ、世論を味方につけるためだった。だが、期待された党首討論を行うことさえできなかった。有権者に対する責任を果たしたとはいえない。
国立ハンセン病療養所を地域に開かれた医療機関とすることを可能にするハンセン病問題基本法が、議員立法で成立した。
これまで原則として認められなかった外部患者の診療について「療養所の土地、設備を地方公共団体または地域住民の利用に供する」ことができるとした。基本理念としては、国の隔離政策による被害を可能な限り回復すること、入所者への差別や権利侵害の禁止を掲げた。
かつて全国で一万五千人を超えたとされた入所者は、高齢化に伴い現在約二千七百人まで減っている。このままでは療養所の統廃合やスタッフ削減など、医療の後退が危ぶまれる。
このため全国ハンセン病療養所入所者協議会などが、療養所の将来の可能性を広げるため基本法制定を求めてきた。集まった八十数万通の署名が、国会を動かしたといえよう。
今後は療養所の将来構想策定が課題となる。瀬戸内市には、長島愛生園と邑久光明園の二つの療養所があり、利用法について入所者の自治会で検討している。高齢者医療や福祉施設などの案が出ているという。
国のハンセン病に対する誤った隔離政策は、患者に対する偏見や差別を生んできた。一九九六年のらい予防法の廃止後も、入所者の社会復帰は進んでいない。しかし、入所者にとって半世紀以上を過ごした療養所は「第二の故郷」である。療養所を地域に開いて共生社会を実現することは、療養所ごと社会復帰を果たす意味がある。
基本法では、国に十分な医療体制の確保を求め、入所者の意思に反して転所や退所を求めることも禁じている。苦難の人生を送ってきた入所者が安心して日々が過ごせることが何よりも大切だ。国や自治体も積極的な後押しが求められる。
(2008年6月12日掲載)