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ウガヤ式エンタメ読解術

商談成立で「グー」とか、3の倍数で“アホ”になっちゃったり……

日本のテレビにお笑い芸人大量発生中

烏賀陽 弘道(2008-06-12 11:45)
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 天候不順な今日このごろ、親愛なるオーマイニュース読者のみなさまいかがお過ごしでしょうか。最近原因不明の奇病が大流行(だいりゅうこう)しておりますのでご注意ください。

(1)会社でエクセルに数字を入力していると、3の倍数のときだけアホになった。

(2)ガソリンスタンドで支払いのとき「現金で」と言おうとしたらアントニオ猪木の口調になっていた。

(3)ひとり、道を歩いていると、いつの間にか歩調に合わせて「ヒットエンドラ~ン」とつぶやいている。

(4)商談が成立したとき、取引先相手に両手親指を突き出し「グー」と叫んでしまった。

(5)職場の宴会で、全裸に海パン一丁で「そんなの関係ねえ」と叫ぶ芸を披露しようと別室で準備していたら、同じことをしているヤツが5人以上いた。

(6)プレゼンをしていると、1分で足もとの床がベルトコンベアのように流れ、隣室に消えてしまう妄想が浮かぶ。

 なお(1)では「5の倍数を入力しようとしたら動作がイヌっぽくなってしまった」という症例も報告されております。もし斯様(かよう)な症状が一例でも出ておられる方がおられましたら、至急最寄りの病院で治療を受けることをお勧めします。放置しますと、社会から落伍(らくご)する危険性がありますのでどうぞご自愛ください。

みーんな「バラエティー番組」化!?

 いや、マイケル・ジョーダンはさておき、昨今、いつどのテレビつけてもお笑い芸人の海ですな~。いやまあ、ハードコア関西人としてはうれしいことですわ。

「ヒットエンドラーン」でおなじみ、鳥居みゆきさん(撮影:馬場一哉)
 東京に住んで14年、「探偵!ナイトスクープ」も「吉本新喜劇」もテレビでやってへん(実は深夜にどっかのローカル局でやってるらしいやん)。つまらん。シャレ言うても江戸の人は笑わん。おもろない。と社会からの孤立感を深め鬱屈(うっくつ)した感情をためている。こういう人、危険ですからね。

 それにしても、いつからこんなにテレビがお笑い芸人で溢(あふ)れかえるようになったんじゃろね。

 1980年代にもローマ字で書くMANZAIブームちゅうのがあったけど、クイズ番組だろうが秘境探訪番組だろうが歌番組だろが、どっかに必ずお笑い芸人がいるって今みたいな現象はなかった。

 例えば1970年代、クソガキのころのワタクシが愛してやまなかった漫才番組「花王名人劇場」には、西川きよし・横山やすしだとかのりお・よしおだとかダイマル・ラケットだとか、筋金入りの漫才芸人(『お笑い芸人』とは別種ね)が続々出てきてはマイクの前で爆笑ネタを艦砲射撃のようにぶっ放していたが、その幕あいに歌手が出てきて歌うなんてありえなかった。

 他方には「ザ・ベストテン」みたいな「うた番組」ってのがあって、そちらは松田聖子だ中森明菜だマッチだなんだと歌手は山ほど出てきたが、漫才系芸人は出てこない。司会だって久米宏とか黒柳徹子だとか、言ってみりゃ「司会のプロ」がやっていた。つまり「笑い」と「うた」は別のプログラムであり、別の専門プロデューサーがいて、編成上も人脈的にも別のラインだったんですな。

 それが今じゃ「バラエティー」というワケのわからん番組カテゴリーができて、歌手もタレント(この職業も正体不明だな)もお笑い芸人も、あげくの果てにはスポーツ選手までが仲良く並んでクイズ番組の回答者になってたりする。あるいは司会がお笑い芸人だったりする。「うた番組」とか「お笑い番組」とかの垣根がぶっ壊れて、シェイクアップされて、みーんな「バラエティー番組」化しちゃったてことですね。

 でまあ、同じ番組に出るから接触頻度が増えたからでしょうね。かわいこチャン歌手・俳優と「熱愛発覚!!」なんてスポーツ紙を賑(にぎ)わすお相手はお笑い芸人がやたらと増えた。あの藤原紀香サンのダンナだってあんさん、お笑い芸人でっせ。あうう悔しいよう。人生間違えた。

NSC以前ならエド・はるみは存在しなかった

 こうなると「有名になりたいヤツ」、「テレビに出たいヤツ」、「金持ちになりたいヤツ」、「オンナにモテたいヤツ」がまず目指すのは、お笑い芸人って寸法になりますわな。昔おっちゃんが若かったころは、そういう連中は「スター誕生」で歌手やミュージシャンを目指したもんだがね。

「グ~」で大ブレイク中のエド・はるみさん(撮影:馬場一哉)
 ここで! 吉本興業はエラかった!

 そういう「お笑い芸人になりたいヤツら」を集めて育てる学校を作っちゃったんだから。

 大阪・難波にある「吉本総合芸能学院」(NSC)です。

 1982年にこの学校ができるまで、お笑い芸人は「師匠」と呼ばれる先輩芸人に個人的に弟子入りして付き人とかして殴る蹴(け)るの暴行を受けながら芸を盗んでいく、という苦労の汗にまみれた徒弟制度しかなかった。

 当然時間がかかる。それを吉本サンは、学費さえ払えば誰でもお笑いのノウハウを一定期間で学べるようにしちゃった。いわば「お笑い芸人ノウハウ教育の近代化」であり「商品化」です。ここの第一期卒業生がダウンタウンだというのは有名な話ですね。

 そしたらもう、出るわ出るわ。トミーズ、ハイヒール、今田耕司、雨上がり決死隊、ナインティナイン、中川家、陣内智則、ブラックマヨネーズと、お笑い芸人がうじゃうじゃ大量生産された。ホレ、よく見てくださいな。みなさんバラエティー番組の常連さんたちでしょ?

 吉本はテレビ局への売り込みでも抜群の力を持つ芸能プロダクションでもありますから、特に驚くべきことではありません。例えば、冒頭の(4)の症状を起こすエド・はるみはワタクシより1歳下の1964年生まれというオバハン、じゃなかった妙齢の女性ですが、舞台女優から方向転換、40歳過ぎてからNSC東京校に入って勉強し直し、お笑い芸人として花咲いたって話からも、このNSCがどれほど大きな変革を起こしたかわかります。さよう、NSC以前ならエド・はるみは存在しなかった。

 でも負の側面も当然ありますわね。視聴者が娯楽に抱く関心の総量は常に一定です。だから、これだけお笑い芸人が大量生産されると、ひとり当たりのアテンション・シェア(関心占有率)が下がるに決まってる。だから視聴者が飽きるのも早い。

 それで思い出したんだが、ついこないだまでみんな宴会芸でマネしていたレイザーラモンHGって、今何やってんすかね? 生協に戻って働いているのかな? わたしゃ今でもつい「フォー」とか言っちゃうんですけど。すみません。

■関連リンク
烏賀陽弘道コラム「音楽は時代を語るのだ


[うがや・ひろみち] 1963年京都生まれ。京都大学経済学部卒業後、朝日新聞社に入社。新聞記者を5年、ニュース週刊誌「アエラ」記者を10 年、編集者を2年経験し、2003年6月、同社を早期定年退職。この間、米コロンビア大学に自費留学し、92年、国際安全保障論(核戦略)で修士。著書に 『朝日ともあろうものが……』(徳間書店)、『Jポップとは何か──巨大化する音楽産業』(岩波書店)、『Jポップの心象風景』など。『週刊金曜日』、 『東洋経済』、『ヌメロ・ジャパン』(扶桑社)などで連載の一方、インターネットラジオ「Blue Radio.com」でパーソナリティーを務める。烏賀陽弘道ホームページ


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