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【社会】

銃刀法では限界 自暴自棄の「拡大自殺」

2008年6月9日 夕刊

 刃物を使った犯罪を防ぐにはどうすればいいか。市内で包丁を購入する人に書類記入を義務付ける条例案を2005年に作った兵庫県川西市の担当者は「行政でできることには現実には限界がある」と本音を漏らす。

 銃刀法は切れる部分(刃体(はたい))6センチを超える刃物を正当な理由なく携帯することを禁じている。

 川西市は「包丁などは簡単に購入できるので、犯罪抑止のため条例案を考えた」という。が、条例案は市議会で「市内だけの記入では意味がない」「罰則がない」と異議が出て、取り下げた。

 「それでも警察、県などと連携して何か考えないといけない時期にきていると思う」と担当者は話した。

 愛知県警地域安全対策課の担当者は「刃物については、販売店に本人確認と用途の確認をできる範囲でお願いしている。が、わざわざ『人を殺すために買う』という人はいないので、正当な理由を言って買われると何ともしようがない」と実情を明かした。

 加藤幸雄・日本福祉大教授(犯罪心理)はナイフを使う理由を「見せかけの万能感をもつ人間が、実際には未熟な自我を補い、自分を強化する道具として手にする。銃社会であれば乱射になってもおかしくない」とみる。

 「社会から離脱し、何をしたらいいか分からない人間による脱社会型の犯罪では」と分析。

 犯罪の抑制には「自分の周囲で誰かが孤立してないかという問いをそれぞれが持っていくこと」とし、「自暴自棄型のある種の『拡大自殺』ともいえる。巻き添えをつくり、自己の存在感を示す。仲間を集めるネット自殺ともつながっている」と話した。

 ■元最高検検事の土本武司白鴎大法科大学院長の話 車で歩行者をなぎ倒し、さらに刃物で刺すという行為は、これ以上ない極めて危険なものだ。事前にレンタカーを準備し、車の通行が規制された歩行者天国に突っ込んだという時点で、確定的な殺意を持っていたと判断せざるを得ない。逮捕された男は心神耗弱状態にあったとは考えられない。具体的な動機を解明していくことが重要だ。

 ■評論家の大宅映子さんの話 誰でもいいから殺したいというだけで、何人もの命を奪ってしまう事件が起きたこと自体に、社会全体の犯罪に対する抑止力が低下していると感じざるを得ない。自暴自棄になった末、命を何とも思わないような行為に走る人間に対しては、防犯カメラも巡回パトロールも効果がなく、防ぎようがない。同じような事件が起きないようにするためにも、子どものころから命の尊厳を繰り返し教え込むなど地道な努力を積み重ねて、安全な社会を築いていくしかない。

 

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