全身麻酔 [General anaesthesia] [被リンク数: 17]

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全身麻酔(ぜんしんますい、General anesthesia)とは麻酔方法の一つ。中枢神経に薬物を作用させ、無痛、意識の喪失・健忘、筋弛緩、有害反射の予防、の4つを満たす状態にすることで患者の肉体的・精神的苦痛を取り除く。局所麻酔との大きな違いは意識消失の有無である。全身麻酔下では患者は苦痛を訴えることができないので麻酔科医が注意深く、モニターする必要がある。全身麻酔の大きな魅力はあらゆる部位の手術に用いることができることである。また、麻酔の目的として鎮静(意識消失)、筋弛緩、鎮痛、交感神経の抑制があげられるが、全身麻酔は基本的にはこれらの条件を全て満たす。

歴史

種類

  • 一般全身麻酔
  • 全静脈麻酔(TIVA:total intravenous anesthesia)
  • ニューロレプト麻酔(NLA:neurolept anesthesia):意識を保ったまま行う全身麻酔である。

概略

全身麻酔は手術で用いる技術であるので、典型的手術を想定して概略を述べる。まずは円滑に導入麻酔を行うために前投与と呼ばれる薬剤投与を行う。唾液分泌、気道内分泌の抑制、有害な反射の抑制のために抗コリン薬(アトロピンやスコポラミン)を用いる。また不安の除去、鎮静、催眠の目的にジアゼパムやニトラゼパムを投与し疼痛域値の上昇のためにモルヒネやバルビツレート薬を用いる。これらは病室で済ませておくことが多い。手術室に入室すると局所麻酔である硬膜外麻酔を疼痛対策として用いる。そして導入という操作を行う。導入では主に静脈麻酔を用いる。バルビツレート薬やケタミン、NLAを用いることが多い。導入が済んだら、人工呼吸を行うため挿管をする。この際は筋弛緩薬を用いる。基本的にはサクシニルコリンを投与し、挿管を行い麻酔薬をにつなぎ人工呼吸とする。必要に応じ、d-ツボクラリン(クラーレ)、ガラミン、パンクロニウムを追加する。挿管がすんだらいよいよ吸入麻酔薬による維持を行う。笑気(ガス麻酔薬)とハロセン(揮発性麻酔薬)を組み合わせるのが一般的である。手術が終わるになると吸入麻酔を切り酸素投与のみとする。すると患者は意識が回復する。手を握れる、呼吸できるなどを確認したら抜管する。そして、リカバリー室へ連れて行き、バイタルサインなどを確認する。

術前評価

前投与

基本的には入室30分まえには投与される。鎮静薬と抗コリン薬を投与する。鎮静にはヒドロロジン(アタラックス-P)などを用い、鎮痛にはペンタジン(ソセゴン、ペンタジン)などを用いる。抗コリン作用としては硫酸アトロピンを用いる。これらはいずれも筋注である。場合によっては胃酸分泌抑制薬も前投与する。

導入

Priming principle

一般的に行われる導入方法で、一度に全量の筋弛緩薬を投与するのではなく、投与量の少量を投与して後に挿管する方法。

Rapid Induction

静脈路より鎮静薬を投与し挿管後に吸入麻酔を行う方法。

Slow Induction

吸入麻酔によりマスク換気を行った後に静脈路確保を行い挿管する方法。静脈ラインの確保を嫌がる小児などに用いる。

Crash Induction(rapid sequence induction)

緊急時の手術の場合などで、胃内容物があるような場合に致死的な誤飲性肺炎を生じうると考えられる場合に行う方法で、マスク換気を行わずに輪状軟骨部分を圧迫して食道を閉鎖して挿管する。
筋弛緩薬の投与は基本的には喉頭痙攣の防止目的である。よく用いられる薬は非脱分極性筋弛緩薬であるベクロニウム(マスキュラックス)である。

維持

基本は吸入麻酔による維持となるが、吸入麻酔薬、オピオイド、硬膜外麻酔を併用した麻酔も非常に多い。麻酔薬は交感神経の活動を抑制するものがほとんどであるので、導入が終わってから、手術開始までは刺激が加わらなくなり血圧低下や脈拍減少をきたしやすいので注意が必要である。基本的にはバイタルサインと手術の進行を比べながら、麻酔の深度が適切であるのか、鎮静、鎮痛は十分か、蘇生が必要な状況かといったところを考えながら全身管理をしていくこととなる。
  • 吸入麻酔
:よく利用するのは亜酸化窒素(笑気)、セボフルラン(セボフレン)、イソフルラン(フォーレン)である。吸入麻酔薬だけでなく、硬膜外麻酔やオピオイドの静注を併用することで、吸入麻酔の濃度を減らすことができ、中毒の発生などを予防することができる。
  • 静脈麻酔
:よく利用するのはプロボフォール(ディプリバン、プロポフォールマルイシ)、ミダゾラム(ドルミカム)、フェンタニル(フェンタニル・旧名フェンタネスト)ケタミン(ケタラール)である。
  • 筋弛緩薬
:万が一の体動が非常に危険だったりするときや静脈麻酔薬のみで全身麻酔を行っている場合は筋弛緩薬ベクロニウム(マスキュラックス)を積極的に用いる。

抜管

吸入麻酔を止め、全身麻酔から覚醒し筋弛緩作用からの回復が十分で呼吸、循環、代謝の状態が安定していれば気管チューブを抜管できる。筋弛緩薬の効果が残っておりシーソー呼吸などが起こった場合はネオスチグミン(ワゴスチグミン)を用い更に硫酸アトロピンを用いムスカリン様作用を防止する。抜管後、10分以上患者を観察し落ち着いていたら帰室させる。

合併症

全身麻酔でよく使われる薬物

ここでは全身麻酔でよく使われる薬を述べていく。
:現在は笑気単独で麻酔はかけない。あくまで他の麻酔薬と併用をする麻酔薬である。鎮痛は強いが鎮静、健忘の作用が無いため術中覚醒をしてしまう。
  • イソフルラン(フォーレン)
:麻酔導入には殆ど用いられないが麻酔維持には笑気と併用でよく用いられる。肝障害の可能性がある場合は控えた方がよいとされている。
  • セボフルラン(セボフレン)
:イソフルランよりは導入に向く吸入麻酔薬である。緩徐導入、急速導入どちらにも用いられる。腎障害がある場合は控えたほうがよいとされている。
  • 静脈麻酔薬
  • チオペンタール(ラボナール)
:現在は頭蓋内圧亢進症患者の麻酔以外では使い道がない。
:麻酔の導入にも維持にも好んで用いられる。疼痛効果がないのでフェンタニルなど疼痛薬と併用をする。
  • ミダゾラム(ドルミカム)
  • ケタミン(ケタラール)
:解離性麻薬と呼ばれる。視床大脳新皮質は抑制するが、大脳辺縁系を賦活する。熱傷の疼痛除去でも好んで用いられる。
  • 麻薬
  • レミフェンタニル(アルチバ)
  • フェンタニル(フェンタネスト)
  • モルヒネ(塩酸モルヒネ)
:拮抗薬にナロキソンがある。
  • 神経遮断薬
  • ドロペリドール(ドロレプタン)
:NLA(神経遮断麻酔)をフェンタニルとの併用で行う。
  • 筋弛緩薬
  • ベクロニウム(マスキュラックス)
:非脱分極性筋弛緩薬である。拮抗薬にネオスチグミン(ワゴスチクミン)がある。
  • バンクロニウム
:非脱分極性筋弛緩薬である。
  • スキサメトニウム
:脱分極性筋弛緩薬である。
  • 昇圧薬
  • エフェドリン(エフェドリン)
  • ドパミン(イノバン)
  • ドブタミン(ドブトレックス)
  • ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)
  • エピネフリン(ボスミン)
  • 降圧薬
  • ニカルジピン(ペルジピン)
:カルシウム拮抗薬
  • ジルチアゼム(ヘルベッサー)
:カルシウム拮抗薬
  • レートコントロール(徐脈に対して)
  • アトロピン(硫酸アトロピン)
  • レートコントロール(頻脈に対して)
  • ベラパミル(ワソラン)
  • ジソピラミド(リスモダンP)
  • ジルチアゼム(ヘルベッサー)
  • エスモロール(ブレビブロック)
  • ランジオロール(オノアクト)

関連書

  • 中田力『脳のなかの水分子』意識が創られるとき 紀伊國屋書店 ISBN 4314010118

参考文献

  • 麻酔科必修マニュアル 羊土社 ISBN 4897063442
  • STEP 麻酔科 海馬書房 ISBN 4907704275
  • イヤーノート内科外科等編 2007年版 メディックメディア ISBN 9784896321500
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出典:「フリー百科辞典ウィキペディア」(2007-04-10 15:14:04)
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