全身麻酔

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全身麻酔(ぜんしんますい、General anesthesia)とは麻酔方法の一つ。中枢神経に薬物を作用させ、無痛、意識の喪失・健忘、筋弛緩、有害反射の予防、の4つを満たす状態にすることで患者の肉体的・精神的苦痛を取り除く。局所麻酔との大きな違いは意識消失の有無である。全身麻酔下では患者は苦痛を訴えることができないので麻酔科医が注意深く、モニターする必要がある。全身麻酔の大きな魅力はあらゆる部位の手術に用いることができることである。また、麻酔の目的として鎮静(意識消失)、筋弛緩、鎮痛、有害な副交感神経反射の抑制があげられるが、全身麻酔は基本的にはこれらの条件を全て満たす。

目次

歴史

中国後漢末期、華陀が『麻沸散』という麻酔薬を用いて手術を行った、と『三国志』に記載されている。この『麻沸散』は全身麻酔薬であろうと考えられているが、どのような物であったかは明らかではない。正確に確認できる全身麻酔の記録としては、1804年華岡青洲が行った乳癌手術が初出である。この時用いられた麻酔薬『通仙散』はチョウセンアサガオトリカブトトウキなどを配合したものであった。西洋では、1846年アメリカでウィリアム・モートンが行ったジエチルエーテルによる手術が初の全身麻酔手術となる。エーテルは取り回しに難があったため、すぐにクロロホルム に取って代わられた。1934年にアメリカのアーネスト・ヴォルワイラー(Ernest H. Volwiler)によって開発されたチオペンタールは現在でも全身麻酔薬として使用されており、WHOのエッセンシャル・ドラッグにも指定されている。

概略

  • 全身麻酔は手術に付随する医療である。典型的な開腹手術を想定して概略を述べる。術前の合併症や年齢、性別、体重、その他によって麻酔の手順はまったくことなり、それぞれの患者に応じた麻酔が行われるため、このとおりに行われないことも多くあることに注意されたい。
  • まずは円滑に麻酔を行うために前投与と呼ばれる薬剤投与を行う場合がある。唾液分泌、気道内分泌の抑制、有害な反射の抑制のために抗コリン薬(アトロピンスコポラミン)を用いる。また不安の除去、鎮静、催眠の目的にジアゼパム などを投与する。これらは以前は病室で済ませておくことが多かったが、近年は疼痛や合併症を伴う筋肉注射を避けるため手術室入室後に投与することも多い。手術室に入室すると末梢静脈ルート確保の後、手術部位によっては局所麻酔の一種である硬膜外麻酔用のカテーテルを挿入する。そして十分な酸素投与を行う。患者を入眠させる導入という操作では主に静脈麻酔薬であるバルビツレートプロポフォールと合成麻薬であるフェンタニルを組み合わせて用いる。患者入眠後はマスクにより気道確保、人工呼吸ができることを確認し、筋弛緩薬を投与する。筋弛緩薬としてはベクロニウムが用いられることがほとんどである。筋弛緩薬の効果が得られたら確実な気道確保のため、気管挿管を行う。その後は人工呼吸を行う。導入後は吸入麻酔薬であるセボフルランやイソフルラン、または静脈麻酔薬であるプロポフォールを持続的に投与し、麻酔の維持を行う。亜酸化窒素 (笑気)は近年では環境への影響(温室効果)や、術後嘔気嘔吐を招くことから敬遠されることが多い。手術が終わりに近づくと麻酔薬を徐々に減量し、手術終了すると中止する。患者の意識が次第に回復するので。手を握れる、深呼吸できるなど、筋弛緩薬の効果の消失の確認、麻薬による呼吸抑制の有無など確認し、条件を満たすなら気管のチューブを抜去する(抜管)。そして十分な確認の後病棟へ帰室させる。


2008年6月10日 17:43 GMT 版【全身麻酔】変更履歴

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