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誰でもよかった:秋葉原通り魔事件/下 若者引き込む仮想の世界

 ◇<本当の友達がほしい> 破滅、止める者なく

 東京・秋葉原の17人殺傷事件で、加藤智大(ともひろ)容疑者(25)が携帯サイトに設けたとみられる掲示板には、5月31日、2分間に5本の連続的な書き込みがあった。

 <上辺だけの友達>

 <言葉だけの友達 実際は他人>

 <みんな敵>

 <友達がほしい>

 <本当の友達がほしい>

 とげとげしい言葉の奥から表れた心情に対し、厳しい匿名の書き込みが2件続く。

 <自分を救う気ないなら死ねよ>

 <友達できるはずがない。しねよ>

 加藤容疑者はその日、静岡県裾野市から列車を乗り継いで東京へ向かう。最後にたどり着いたのが秋葉原だった。その時の感想と思われる書き込み。<秋葉原もカップルだらけだった 意味わからん>

 低い梅雨空の下、事件現場の祭壇に11日も献花が続く。

 近くの雑居ビルの4階に、対戦用カードゲームのカードを売る店がある。加藤容疑者に刺されて亡くなった会社員、宮本直樹さん(31)=埼玉県蕨市=は店の常連だった。ここ1年顔を見せず、男性経営者(44)は気にかけていたが、テレビで悲報を知った。「あの日、来ていたんですね。大好きな場所だったから」

 ゲーム愛好家の間で「世界の宮本」と呼ばれる伝説的プレーヤーだった。「自分もカードの店を開きたい」。経営者は5年前、相談を持ちかけられた。宮本さんは東京・池袋で開店するが、盗難にも遭い、半年後に店をたたんだ。「一度埼玉に戻るけど、またやりますよ」。その時の笑顔が今もよみがえる。

 東京情報大2年、川口隆裕さん(19)=千葉県流山市=は、友人3人とアニメ映画を鑑賞した新宿から秋葉原に向かった。ゲームの話をしながら歩行者天国を歩いている時、東京電機大2年、藤野和倫(かずのり)さん(19)=埼玉県熊谷市=と共に加藤容疑者のトラックに命を奪われた。

 大学でコンピュータープログラムを学ぶ川口さんにとって、秋葉原は情報収集の場でもあった。友人の一人は事件後ブログでこう書く。「行くあてもなく適当に歩いていた。いつも通りのグダグダな雑談」

 全国から若者たちを引き寄せ、仮想の世界へ誘うアキバ。現実の世界で劣等感に押しつぶされた25歳の容疑者も、引き寄せられた一人だ。

 破滅に向けて走る自分を誰かに止めてほしい--。掲示板での「実況中継」は、そのためのものだったのか。

 加藤容疑者の掲示板は事件直前まで少なからず注目され、携帯サイトの管理会社には警告も寄せられた。それでも掲示板上に「やめろ」といさめる書き込みは現れなかった。

 事件当日の夜、展開を予想していたかのような匿名の書き込みがあった。<ザマアみんな騙(だま)された>

 加藤容疑者は結局、本当の友を見つけられなかった。

毎日新聞 2008年6月12日 東京朝刊

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