エッセイ:「デンマークでの経験とラーンネット設立まで」

第1章 「デンマークでの経験」

○何かおかしい?日本の教育・社会


 阪急神戸線に乗っていると、夜9時から10時頃でも塾帰りの小学生の姿が多く見られます。我々が野山を駆け回ったり、空き地で野球をしていた頃の子供たちです。ひどい場合には日曜日に2食分の弁当を持って塾に出かけるそうです。そこまで勉強していったい何が得られるのでしょうか?良い学歴でしょうか?それが社会にでて役立つということでしょうか?だとするとなぜ大学をでてまで就職の出来ない人がいるのでしょうか?日本のサラリーマンは遅くまでよく働きます。公称の労働時間は約2100時間といわれています。ドイツは1400,デンマークは1500時間です。これだけ働いて何を得ているのでしょうか?家一軒も買えない場合が多い。

  これが当然なのでしょうか?何かおかしくないですか。何となくおかしいと思っているが、皆そうだから流されてしまうのでしょうか?

 日本の外にでると、これは異常だということがよくわかります。

○デンマークの豊かな環境


  私は家族とともに2年間デンマークに住み、北欧企業を相手に仕事(コンサルティング)をしていました。そして日本との違いに驚きの連続でした。
まずは自然に囲まれた豊かな生活。コペンハーゲンの都心から電車で 15分も行けば、森や湖に囲まれた美しい町並み。普通に働けば土地が何百坪もある広い一戸建てが誰でも手に入ります。


○デンマークの豊かな生活


 デンマークには受験戦争も塾もありません。皆が自然とふれあいながら 伸び伸びと生活しています。仕事の面でもほとんどの人は午前8時から午後4時で仕事を終え、その後は家族とのんびり過ごしたり、日の長い夏は外やサッカー、コンサートに出かけたりします。ゴルフのラウンドも出来ます。 夏休みはたっぷり1ヶ月とります。
だからといって日本に比べて仕事の面で劣っていると言うことは全くありません。デンマークは日本に対して貿易黒字です。また、一緒に仕事をした人々も大変優秀で、特に英語でも自国語でもその高いコミュニケーション能力には目を見張りました。議論も上手で結論が早くでるので、仕事も速く終わるのです。

 なぜ、こんなにも違うのか不思議に思い、いろいろ尋ねてみたところ、子供の頃の教育に原因があることが分かってきました。

○デンマークの教育


 デンマークでは子供の頃から、一人一人が自分の意見を持ち、それを表現すること、また、人の意見を尊重することを学びます。また議論をぶつけ合った上で、みんなで決めたことにはきちんと従います。こういったことが日常の学校の授業で行われているのです。学校のシステムも大変柔軟です。学校を自由に選択出来るし、誰でも自由に学校が作れる。またその学校に対して公的補助が与えられます。これにより、幅広い学校の選択肢があります。例えば校舎がなく、毎日アウトドアで過ごす学校もあります。子供は多様な選択肢の中から自分にあった教育を選ぶことが出来ます。また、中学3年の頃、高校3年の頃には、知育をせず、旅行などをして自分を見つめ直す、モラトリアム的な期間を過ごすことも選択できます。高卒で就職し、経験を積んだ上で大学に行くことも多いです。要するに決まり切ったパターンがあるわけでなく、自分の興味に応じた教育を受けることが出来るわけです。私の娘もデンマークでモンテッソーリ教育を受けましたが、少人数のこじんまりした学校で、一人一人の個性を尊重し、能力を伸ばしてくれる教育は初めての経験であり、大変感動しました。

 

○日本に帰って


 こういうデンマークでの体験の後、日本に帰り、娘を入れる幼稚園、小学校を探しましたが、いいところがなく、愕然としました。 まず近所の幼稚園を見学し、教室の後ろに飾られている絵を見たところ全員が全く同じ構図、同じ色使いなのです。先生が一生懸命指導したのでしょう。本来子供は一人一人表現したいことが違うはずなのに、皆同じ枠にはめられてしまうのです。 小学校でも全員が全く同じことを同じペースで学ぶ事が求められます。その結果、自分の得意な分野では退屈し、苦手な分野ではついていけないという問題が必ず起こります。また先生に教えられることに疑問を持つことは奨励されず、そのまま受け入れることが求められます。その結果質問をしない、何事にも疑問を持たない素直な子がいい子とされ、問題意識のある子はうるさい子ということになります。 また、なんでも先生のいうとおりにすることに慣れ、自分で考えない、決めない、また責任もとらない人間になってしまいます。高度成長時代でいわれたとおりやっていれば何とかなった時代ではこれでもうまくいったのでしょうが、現在のように世界が急激に変化し、判断力が求められる時代では、これでは大変苦労することになります。 結局迷ったあげく娘はインターナショナルスクールに入れることにしたのですが、大変悔しい思いでした。日本人なのに日本に入れたい学校がないなんてなんということだ。こうなったら自分で作るしかない、と感じました。


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