エッセイ:「デンマークでの経験とラーンネット設立まで」

第2章 「私自身の経験・子どもはなぜ学ぶのか」

○私自身の学習経験


 自分自身、子供ころに学んだことで今役に立っていることを振り返ってみると、学校で学んだことで残っているものはほとんどないと感じます。むしろ自分自身で興味をもって本を読んだり、問題を解いたり、ものを作ったりして学んだことの方がよほど残っています。
学んだといえば、就職したマッキンゼーでは、社会で基本的な力と思われる、問題解決力、コミュニケーション力、マネジメントを学びました。私は物理学者を目指していたのですが、このような力を身につけてから学問をやればかもっとうまくいったと思います。日本の学校ではこのような力をつけるための系統的なアプローチは全くなく、多くの先端研究分野ではアメリカに歯立ちません。産業の分野でも、成長分野の主導権はほとんどアメリカが握っています。

○思考のレベルと教育


 ブルームの思考レベルに当てはめて考えると、なぜ日本の教育が社会で役に立たないかが説明できます。
学校で学ぶのは知識中心、すなわち最も低次のレベルのです。せいぜい数学等で理解力応用力が少し試される程度。

 社会で必要なのはより高次の分析、統合、そしてこれらに基づいて最終的に自分で判断、選択する力です。


○社会で活躍している人は子供のとき何をしていたか


 仕事柄、大変多くの人と出会います。日本の社会で生き生きと活躍している人に子供のころどんな生活をしていたか聞いてみるようにしています。その結果、はっきりと次のような特徴があることがわかりました。

  • 自然とのふれあいが多い。

  • 自分で興味を持ったことにかなり徹底的に打ち込んでいる。とくに何かものづくりをしていた人が多い。

  • 興味を持ったことに打ち込むことを親がじゃましていない。むしろ必要なものを買ってあげたりして、助けている。

  • 学歴は全く関係ない。受験勉強のために自分の好きなことを犠牲にしていない。学歴の良さは、ペーパーテストで高得点をとる能力をみるだけで、社会で活躍できるかどうかは別問題です。

活躍される方々は、子供の頃から自然とのふれあい、創造活動を通じ、自分なりの試行錯誤通じて、統合力・判断力を身につけているようです。

○日本の教育は21世紀には通用しない


 多くの識者の方々も、日本の教育に危機感を抱いておられます。
先日のテレビ番組でも、情報化時代に向けた日本の教育の遅れが指摘されていました。

 例えば、大前研一さんは、日本の教育は西洋のまねをして追いつくための、高度成長時代の教育であり、これからは、孫さんや西さんのような日本社会でははちゃめちゃと思われる人が多数生み出されるような教育にしていかないといけない。その取り組みが数年も遅れていることを指摘されました。

 大前さんはラーンネットの推薦者になって頂くなど、何かと応援していただいています。

 

○情報革命が起こっている


 教育が変革を求められているのは実は日本だけではありません。今世界的に起こっている情報革命により、学び方の根本的な変化が起ころうとしています。
我々が育った時代のコミュニケーションは一方通行がほとんどでした。すなわち、教科書、先生、テレビ等から受ける情報を一方的に受け入れていました。ところが今はインターネットなど双方向型メディアの発達により、誰もが主体的に双方向に情報を発信、入手出来るようになってしまいました。

 この情報の波を先生やテレビがコントロールする事はもはや不可能です。今教育に必要なことは、情報洪水の中を生き抜く知恵を付けることです。すなわち、知識を記憶することよりも、何が必要な情報かを見抜き、主体的に情報を集め、分析し、課題に対する結論を導き出す力を身につけることです。

○21世紀は今の子供が創り彩る


 21世紀のネットワーク社会を創るのは誰でしょうか?それは我々大人ではなく、今の子供たちなのです。情報社会を駆けめぐる情報の中身をデザインし、社会を彩るのも今の子供たちなのです。
今学校で教科書で教えられていることのほとんどは21世紀には陳腐化してしまうでしょう。

 学習の仕方も大きな変革に迫られています。これまでは何を学ぶべきかを中央(学校なら文部省、企業なら本社)で企画し、教科書・マニュアルを作り、集合授業・研修を実施し、という進め方でした。今ではこれでは世の中の早い動きについていけず、企業にとっても大きな悩みとなっています。

 これからは個人がインターネットや社内ネットワーク、そしてもちろん実体験を通じて最新の情報を収集し、自己学習が基本になっていくでしょう。

○子供はなぜ学ぶのか


 パソコンを扱う子供と大人を観察すると学ぶということの意味が見えます。子供の方が早くマスターするのはなぜでしょう。
最大の違いは子供は失敗をおそれずになんでもやってみることです。大人はここをいじるとパソコンが壊れるのではとか、間違っているのではないか、ということをおそれ、トライしてみるということが少ないです。

 どうしてこうなってしまうのでしょうか?それは学校や、社会の中でXをつけられる苦しみを味わってきたからです。権威のある人に“だめ”といわれたり“X”をつけられたとき学習はストップしてしまいます。

 興味のあることに失敗をおそれずにとりくんでいるとき、学習はもっとも進みます。ちなみに、デンマークでは中学3年までペーパーテストによる評価をせず、一人一人がのびのびと自己表現することが奨励されます。

 


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