米通貨政策の責任者がドル防衛発言を繰り返している。ポールソン財務長官、バーナンキ連邦準備理事会(FRB)議長らは一丸となって、市場に意思を伝えている。世界経済の持続的成長のためにも、各国はドル安定に向け協力し合うときだ。
主な貿易相手国との間ではじいた、ドルの実効為替相場は変動相場制移行後の最安値圏にある。ドル安は米国の輸出を後押ししているが、国際商品価格を押し上げる要因でもある。今年に入り4割も上昇した原油はその典型。新興国だけでなく、米欧にもインフレ圧力となって跳ね返っている。日本の5月の国内企業物価指数も前年同月比で4.7%上昇し、27年ぶりの高水準だ。
インフレ懸念を前に、米当局も本気でドル価値維持に取り組まざるを得なくなった。ポールソン長官は市場介入の可能性に言及した。ブッシュ政権は発足以来、不介入を貫いてきただけに、踏み込んだ内容だ。バーナンキ議長らFRBもドル安懸念で歩調を合わせた。原油など商品の相場動向を調べるため、米商品先物取引委員会(CFTC)は省庁横断の作業部会の設立を発表した。
一連の発言や発表に敬意を表する形でドル安、原油高は一服した。とはいえ、実際の行動を伴わない「口先介入」だけで、為替相場の流れが反転したことはほとんどない。
米国は本当にドル買い介入に踏み切るのか。金融システム問題が解消していないのに、FRBはドル防衛のために利上げできるのか。当局の行動を試す形で、市場のドル売り圧力が募る局面は十分にあり得る。
気掛かりなのは、ドル防衛発言と時期を合わせ中国などアジア株の下げが目立つ点だ。ドル安を防ごうと米国がマネーの蛇口を絞ると、グローバルな資金の巻き戻しが起きる。そう警戒しているともみえる。
1987年に日米欧7カ国(G7)はドル相場安定をうたったルーブル合意を結んだ。その後、安定のうたい文句とは反対に、インフレ懸念と政策協調のきしみが、市場の反乱であるブラックマンデー(世界同時株安)を招いた。そんな苦い経験もある。基軸通貨であるドルは、今や取り扱い要注意だ。各国間の緊密な情報交換と協調行動が欠かせない。