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社説:「徳政令」判決 ヤミ金撲滅の武器ができた

 最高裁判所が指定暴力団山口組旧五菱会系のヤミ金事件で、著しい高金利の取り立てを受けた被害者には、利息部分のみならず元本部分も賠償すべきだとの判断を示した。

 貸金業の登録もなく、異常に高い金利の場合は、返さなくてもいいという「徳政令」判決は、ヤミ金という違法な業者の存在を許さないという点で評価したい。

 消費者金融の貸出金利引き下げや過剰な取り立てへの罰則強化などを内容とする出資法や貸金業法の改正を受け、07年4月策定された多重債務問題改善プログラムでも、ヤミ金対策は大きな柱だ。

 しかし、その内容は警察による取り締まりが中心で、目新しさはなかった。

 ヤミ金の恐ろしいところは、貸金業の登録をしている消費者金融会社で借りられなくなった人や、多重債務に陥った人を甘い言葉で勧誘し、さらに深刻な借金漬けにしてしまうことだ。ヤミ金業者は法外な利息収入だけでもぼろもうけできる。借り手は過重な元利支払いで生活が破綻(はたん)したり、自殺に追い込まれるケースも発生していた。

 貸金業法などの改正に関連して、貸出金利が引き下げられれば、消費者金融会社の融資審査が厳しくなり、借りられない人が出るため、ヤミ金の営業の活発化を危惧(きぐ)する声もあった。事実、07年のヤミ金被害は件数で、前年より約5割増となった。効果的な対策が取られていないことの反映でもある。

 今後も、ヤミ金被害が広がることになれば、せっかくの上限金利引き下げや罰則強化の効果も減殺されてしまう。

 その点で、法外な金利で莫大(ばくだい)な利益を上げているヤミ金の貸し出し元本までも、借り手は一切返済する必要はないとの今回の判決は、ヤミ金の経営基盤を全面的に突き崩すものである。今後、ヤミ金被害者が次々に訴訟を起こすことになれば、訴訟の対象となったヤミ金の経営は立ち行かなくなる。効果絶大である。

 多重債務者の相談体制も自治体の消費生活センターや日本クレジットカウンセリング協会、各地の弁護士会に加えて、法テラス(司法支援センター)もできた。被害者が立ち上がれば、ヤミ金は窮地に陥る。

 もともと、ヤミ金はあってはならない金融業態だ。行政も今回の最高裁判断を有効に活用すべきだ。

 同時に、銀行や消費者金融会社から借りられない人への対策も真剣に考えるべきだ。中小事業者向けには国民生活金融公庫や自治体の制度金融が活用できる。個人には、自治体が中心になり、地域金融機関の協力も仰いだ仕組み作りが考えられる。非営利組織による小口融資金融機関も検討材料だ。

 消費者金融の健全化が緒についたいま、ヤミ金の横行を許してはならない。

毎日新聞 2008年6月12日 東京朝刊

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