スーパー歌舞伎『ヤマトタケル』
市川右近、市川段治郎、市川笑也ほか。6月9日から27日。中日劇場
【暮らし】新生児病床の苦悩 『一人飲み』やむなく…2008年6月12日 各地の病院で、命の危機を脱したばかりの未熟児がベッドに寝かされたまま、一人で哺乳(ほにゅう)瓶をくわえている…。青森県立中央病院新生児集中治療管理部長の網塚貴介さん(47)は、新生児集中治療室(NICU)の看護師の忙しすぎる勤務実態を訴え、配置基準の見直しを求めて行動している。“病院の恥”として隠すのではなく、一緒に考えることで医療を守っていこうという呼び掛けだ。 (野村由美子) 四月。東京で「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」が開いたシンポジウムで、ベッドに横たわる赤ちゃんの「一人飲み」の写真が、スクリーンに大きく映し出された。 「看護師があまりにも多忙で、抱っこして授乳することができなくなっている。新生児を扱う病棟に看護師の配置基準がないから」 網塚さんの説明に会場は静まり返った。 NICUでは、赤ちゃん三人に対し、看護師一人の配置基準があるが、NICUから出た後の回復期病床(GCU)には配置基準がない。結果的に、一人で九人から十人を受け持つ当直が当たり前になっている病院も多い。 「NICUが慢性的にベッド不足なため、人工呼吸器を使う乳児も、回復期病棟にどんどん押し出されている。安全に看護できないのは明白。せめて抱っこして授乳できるようにしてほしい」 ◇ 青森県立中央病院を訪ねた。九床のNICUは満床。十五床のGCUでは八人で、保育器に入っている赤ちゃんもいた。 定期的な投薬などの看護のほか、三時間に一度の授乳におむつ交換、清拭(せいしき)などの保育ケアもあるが「GCUが満床になることはないので、今の態勢でも何とか一人飲みさせずにやっていけます」と網塚さん。 衝撃を与えた「一人飲み」の写真は、問題の深刻さを訴えるために、親の了承を取って入院中の赤ちゃんをモデルに撮影したもの。「物言えぬ新生児が一人の人間として扱われることが急務」と話す。 問題を訴えたのは、今回のシンポが初めてではない。二〇〇五年には、全国の百八十四施設を対象に調査を実施。回答した施設は半数の九十二にとどまったが、うち五十施設が「一人飲み」をさせたことがあると答えた。特に、GCUで夜勤看護師一人あたり九人以上の赤ちゃんを担当している施設では、ほぼすべて(二十五施設)で「一人飲み」が行われていた。五十施設のうち約四割で、チアノーゼや嘔吐(おうと)などのトラブルが起きたことがあったという。 「どこの施設も決して好きでやってるんじゃない。でも運ばれてくる赤ちゃんを救わないわけにいかない。すべて引き受ければ、現状の人員では限界がある。それはケアの低下や危険につながる。批判は覚悟で現状を訴えるしかないんです」と網塚さん。 GCUに適正な人員配置がされれば、看護師が母親のケアに取り組む余裕も生まれ、早期退院も可能になり、NICUの受け入れ能力も上がる、とも説明する。児童福祉法では、保育所の配置基準(乳児三人に一人の保育士)が定められており、GCUにも同等の体制ができるように、法整備や予算措置を求めている。 シンポを実施した議員連盟幹事長の鈴木寛参院議員は「日本の小児医療の深刻さを痛感した。議連としても診療報酬の是正を国会で働き掛けていきたい」と話す。 =次回は二十六日掲載 <新生児集中治療室(NICU)> 未熟児や出生直後から治療が必要な新生児が対象になる。緊急時を脱すると回復期病床(GCU)で引き続き治療を受ける。最近は出生数が減っていても、多胎・高齢出産の増加や医療技術の進歩により、2・5キロ未満の低出生体重児の数は年々増えている。特に1キロ未満の赤ちゃんは1991年から2006年を比べると46%増、500グラム未満は1・67倍に増えている。
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