Catherine Holahan (BusinessWeek.com記者、ニューヨーク) 米国時間2008年6月3日更新 「Auctions on eBay: A Dying Breed」
10年ほど前からブルース・ハーシェンソンさんは、稀少性が高くてコレクターが好みそうで、時には派手な装飾の入ったコレクション品や年代物のポスターなどを、開始価格99セントでオークションサイトに出品してきた。米イーベイ(EBAY)を世に知らしめた電子商取引の体現者とも言える彼だが、今回、イーベイへの出品を中止することにした。
インターネットを介した売買システムが成熟し、オークションの興奮や目新しさが、ワンクリック購入の利便性に取って代わられてしまったからである。ハーシェンソンさんは6月3日を最後にイーベイから撤退する。「オークションは変わってしまった。全くの別物だよ。二度と元には戻らないだろうね」。
以前、オークションは電子商取引の花形だった。単なる買い物の場ではなく、欲しいものを必死に争って勝ち取る場。それがイーベイだった。だが最近では、オークションの手間を嫌い、さっさと固定即売価格で購入する消費者が増えている。
ハーシェンソンさんはイーベイで生計を立てる多くの小規模出店業者の典型的な例で、オンライン販売への取り組み方の見直しを迫られている。見直しが迫られているのはイーベイも同様だ。
固定価格で販売するネット小売り最大手の米アマゾン・ドット・コム(AMZN)は、2008年の第1四半期決算で37%の増収となった。これに対し、オークションが売り上げ全体の58%を占めるイーベイは14%の増収にとどまっている。「本当に欲しいものなら、少々安く買えるからといって(オークションで)時間を無駄にしたりはしないよ」と話すのは、シカゴ在住のデーブ・ドリビンさん(34)だ。以前はイーベイのオークションを利用していたが、今は固定価格でしか買わないと言う。
こうした傾向はイーベイ経営陣も分かっている。今年3月に就任したジョン・ドナフーCEO(最高経営責任者)は、今後の成長のカギを握るのは固定価格商品との考えを明確に打ち出している。
イーベイでは、“即売価格販売”の商品が全体の42%を占めている。これはオークションに出品されていても固定価格で落札できる商品のこと。年率で22%の伸び率は同社ショッピング事業の中で最も高い。
「ウェブ検索機能の発達で、多量の固定価格の商品が検索可能になっている」と、ドナフーCEOは4月16日、就任後初となる業績発表後の会見で述べた。「我々は買い手の選択に委ねる」としたが、その先については言及しなかった。
今の状況が続けば、イーベイの収益は今年、初めて固定価格販売での収益がオークション販売での収益を上回りそうだとアナリストは見ている。「ネットオークションの魅力は過去のもの。大きくシェアを落とすオークションに代わり、固定価格販売が着々とシェアを伸ばしている」と、米調査会社アメリカン・テクノロジー・リサーチのアナリスト、ティム・ボイド氏は指摘する。
成長に拍車をかけようと、ドナフーCEOはワンクリック購入を好む利用者の利便性に配慮した変更を推し進めている。メグ・ウィットマン前CEOの退任時、イーベイはオークションの利用拡大を目指し、「欲しいものを勝ち取ろう(Shop Victoriously)」と呼びかける販促広告を行っていた。しかし、ドナフーCEOは固定価格商品の品揃え強化に取り組み中だ。イーベイは5月、米バイ・ドット・コムと提携し、同社の取り扱う様々な商品を定価販売していくことを発表している。
「ここ半年、イーベイは変動価格商品を大幅に縮小し、固定価格商品の品揃えを拡充してきている」と、米証券会社キャンター・フィッツジェラルドのアナリスト、デレク・ブラウン氏は言う。
今年1月に発表された手数料の改定は、イーベイが固定価格販売に力を入れ始めていることを最も象徴しているかもしれない。出品する際の手数料を引き下げると同時に、商品が売れた場合の手数料を引き上げる新体系は、固定価格商品を出品する大手業者には有利だが、従来のオークション方式で出品する多くの業者には負担増となる(BusinessWeek.comの記事を参照:2008年1月29日「EBay Courts 'Power Sellers'」)。
オークション・サービスは今後も継続するとイーベイ幹部は話す。詳細は不明だが、オークション出品業者が窮することのないよう料金を改定していくという。
また、6月19〜21日にシカゴで開催されるイベント「イーベイ・ライブ」の期間中または終了後に、オークションと固定価格販売を融合する付加機能が披露される予定だ。2つに分けた画面の一方にオークション、他方に即売価格を表示する機能が、その1つと目されている。
「サイトの独自性を維持するにはオークション形式が必要だが、成長という観点では固定価格販売がはるかに上だ」と、イーベイの広報担当アッシャー・リーバーマン氏は言う。
では、オークションに何が起きたのだろうか。買い手は利便性だけでなく、買い得感にもこだわるようになっている。オンラインによる価格情報が普及した現在、特価商品の検索は容易だ。オークションで実際の価値より高い値を付けてしまう危険を冒す必要はない。
ハーシェンソンさんにも、入札競争が過熱し、40ドルの新品トースターが80ドルで落札されたのを目にした経験がある。しかし今では、何度かクリックするだけで商品の相場を手に入れることができるのだ。
米非営利調査機関ピュー・インターネット・アンド・アメリカン・ライフ・プロジェクトが今年初めに実施した調査では、インターネット利用者の81%が購入前にオンラインで価格調査すると回答している。「買い手は多くの情報を集め、自分なりの許容価格を決めている。イーベイは当然、そこに訴える価格設定ができるようにすべきだ」と、ピューの部長補佐ジョン・ホリガン氏は言う。
だが、イーベイが買い手中心に事を進めれば、割を食うのはハーシェンソンさんのような売り手側だ。出店業者が最初に手数料の値上げを聞かされたのは、ワシントンで開かれたイーベイ経営陣との会議の席上。ハーシェンソンさんは即座に抗議した。
「私には今のイーベイを築き上げ、日々顧客を呼び込んだという自負がある。ところが、今回の改定で最大の打撃を被るのはほかならぬこの私ではないか」。年間の手数料は12万ドルから18万ドル近くに跳ね上がる見込みだ。
高い手数料を払うくらいならと、ハーシェンソンさんはビジネスの場を自社サイト「イームービーポスター・ドット・コム」へ移すことにした。そこで毎週火曜日と木曜日、1000〜1500品目のオークションを開催している。扱っている商品はマニアの間では認知度が高く、顧客を失うことはないと自信をのぞかせる。実際、既に手応えは十分のようだ。イーベイに支払わずに済む高額な手数料を的確な広告を打つための資金に充てれば、新たな顧客も呼び込めると目論んでいる。
とはいえ、イーベイの出品者全員が自らサイトを立ち上げたり、別のサイトに移転したりできるわけではない。オークションサイトはイーベイを含めて数えるほどしか存在しないのだ。
伸び悩んでいるとはいえ、イーベイのオークションサイトのアクティブユーザー(一定期間内に最低1件の品目を入札・購入・出品した利用者)数は9000万人。米ユービッド・ドット・コム(UBHI)など、その他のオークションサイトはこれをはるかに下回る。設立10年になるユービッドですら、第1四半期のアクティブユーザー数は18万1000人に過ぎなかった。
オークション出品業者は2月、イーベイが1月に発表した手数料改定に抗議して1週間の出品ボイコットに出た。2001年からアンティークの列車や玩具を販売してきたマギー・ドレスラーさんは怒り心頭だ。「みんな憤慨している。イーベイは私たちのおかげで大きくなったのに、もう必要ないと切り捨てようとする。ひどすぎるわよ」。
出品業者の多くは閉店を余儀なくされるかもしれないとハーシェンソンさんは言う。「今回の改悪で、我々の知っているイーベイのオークションは終わってしまうよ」。
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