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【結いの心】

共に歩んだ日々を再び 読者からの反響(下) 絆を思う声

2008年6月10日

コラージュ・刀祢絢子

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 読者からの反響(上)「足元からの声」に続き、(下)では、社内で薄らぐ絆(きずな)を心配するトヨタ社内から届いた声を中心に紹介するとともに、コーヒー屋台の女性を通し、トヨタ系の派遣社員の人たちの心の内を伝えたい。

◆仲間意識薄れ、寂しすぎる

 わが家は、親子3代のトヨタマンです。勤めているだけで、誰からもうらやましがられ、今までは誇りに思っていました。

 このごろはちょっと違ってきたように感じています。従業員同士の仲間意識が薄れ、横のつながりが無くなったと、よく耳にします。門を1歩出ると、後は知らんぷりでは、あまりに寂しすぎます。

 以前は、慰安旅行や運動会、お祭りなど、たくさんのふれあいがありました。世の中が変わったと言えば、それまでですが。(愛知県豊田市、40代主婦)

◆おいの頑張り応援したくて

 おいがカローラの販売店にいます。残業をしてもほとんどサービス残業で、何も言えないようです。製造に比べ、販売の方は給料も低いよう。たたき上げてきた所長さんのねぎらいの言葉で、疲れを吹き飛ばして頑張ってきました。

 でも、今の所長さんはエリートで、「残業をしなくては1日の仕事が進まないのは、役立たずだ。ボーナスの査定に響くぞ」というようなことを言われたそうです。

 私はカローラに乗って11年。次はトヨタ以外にしようかと思いましたが、おいが自分の所で売ったわけでもないのに「カローラに乗ってはる」と喜んでいました。やっぱり、カローラにしようかな。おいが頑張っているから。(岐阜県白川町、59歳自営業女性)

◆ものづくりは人づくり

 昔に比べ、トヨタ社内の人のつながりは、かなり希薄になったように思います。昔は「現地現物」と言って、上位の人もみんなで物を見て話し合いをしていた気がします。

 こんなことを口にするのは、社内では絶対にタブーです。自分が若いころは「ものづくりは人づくり。知恵が出ない者は汗を出せ」と言われ、仕事をしていましたが、難しい時代になってきました。(愛知県豊田市、40代トヨタ社員)

◆人材育成まで効率化優先

 トヨタに勤める中堅技術者です。経営首脳はモノ作りの大切さを声高に叫びますが、現場では新入社員の技術者を3年で一人前にする人材育成方針がスタート。3年といえば、会社になじみ、仕事の流れを覚えるのが精いっぱいで、非常識な方針に悲鳴が上がっています。

 モノを作れるようになるには長い時間が必要なのに(効率化で)技術や技能に対する評価が下がる一方。技術や技能への対価アップや業務のスピードダウンを促すことが、将来への責務と思います。(トヨタ中堅社員)

◆トヨタマンも実情きつい

 主人はトヨタに勤めています。業務外の“残業”があまりに多すぎるのが実情です。年に何度かある家族を交えた懇親会の役員になってから、帰宅は日にちが変わる前後。でも給料は、定時の分しかつきません。研修だらけで家に帰るのも遅く、いつ倒れるのかとハラハラしています。

 研修で仲良くなるための飲み会や夕飯、夜食代は、すべて自腹。給料だって世間で思われているほど高くはありません。

 部署によっては偉そうな態度のトヨタマンがいると主人も言ってました。でも、下請けの人たちのために走り回っている人たちもいるということも、知ってください。(愛知県、30代主婦)

◆取り戻したい創業者の精神

 遠い地方出身のトヨタ社員です。期間従業員になり、数年前に4回目の挑戦で正社員登用になりました。

 3回も試験に落ちていたので、受験をやめようと考えていましたが、親が毎回「期間延長してもらえる」「登用試験を受けさせてもらえる」と話すのを楽しみにしていたので、最後だと思って試験に臨み、奇跡的に合格。社員になれたことで結婚もでき、父親にもなりました。

 ただ、私自身、トヨタの「ものづくり」が好きで社員になりましたが、「創業者の精神」が失われていることに、がっかりしています。それを変えていけるように頑張っていきたいです。(40代トヨタ社員)

◆下請けの苦労学んでほしい

 息子は今春、トヨタ工業学園に入りました。全寮制で、ゴールデンウイークに帰ってきた息子は、同級生と遊びに行く時も「トヨタの看板しょってるから」と、胸を張って出掛けていきました。

 息子に言いたいのは「大きくなれたのは自分一人の力ではない。人に支えられ、大きくなった」ということ。トヨタも、下請けの苦労があってこそ今のトヨタがあることをしっかり学んで、立派なトヨタマンになってほしいと願っています。(愛知県岡崎市、42歳主婦)

■コーヒー屋台発〜「派遣の思い」

駅前広場の屋台コーヒー店には、つかの間の憩いを求める人たちが訪れる=名鉄豊田市駅前で

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 「地方で採用され、トヨタや関連会社に派遣されて働く彼らは、一様に孤独です」。取材班に届いた反響の中に、名鉄豊田市駅前の広場で、軽ワゴン車を使ったコーヒー屋台を営む、ゆみ子さん(39)からのメールがあった。彼女がずっと見てきて感じたことや、お客たちとのふれあいの中から、トヨタや系列企業の末端で働く人々の思いを伝える。

 駅からすぐの広場でコーヒー販売をし、かれこれ2年半。大きめのかばんを持った人に派遣会社の場所を聞かれることがちょくちょくあります。

 慣れない土地、慣れない仕事で大変な上に、身内や子どもたちと離れた孤独感がのしかかり、彼らは一様に孤独です。

 常連客になり、皆さん、ご自分の生い立ちから家族のこと、仕事の愚痴、いろんなことを話されます。仕事以外で世間話をする機会がないそうです。仕送りするので、無駄遣いもしない。

 「行き倒れになったら、職場以外に豊田で俺(おれ)の名前を知ってるのは、あんただけやで」と何度か言われました。ベンチで待っているお客さんに「○○さん、できましたよ」と声を掛けると、本当に喜ばれます。「名前を呼ばれるっちゅうのは、うれしいなぁ」って。

 最近、大阪から来ていた男性が「親の具合が悪く、帰らないといけない」と伝えに来ました。よく「仕事は本当にきっつい。フラフラやで」「でも、家にお金を送らないかんでな」と言っていました。派遣会社の方が「いつでも戻れるようにしておくから、必ず戻ってきてください」と真剣にお願いしていました。きつい仕事に文句も言わず継続してきた大切な労働力だったのでしょう。「使い捨てというより、なり手もいない仕事なんだな」と思いました。

 そういう人たちで成り立っているんだなぁ、トヨタって。家族に仕送りがしたい、と必死で頑張っている人たちの気持ちのよりどころがあれば。トヨタは良い会社だと思うけど、だからこそ「もう少し、そんなところのケアもできればなぁ」とも思うのです。

 以前に知人が母親の介護に疲れて自殺し、私も気持ちが落ち込んで店を1週間閉めたことがありました。常連さんが何人も「体でも悪いのか」と電話をかけてきてくださり、おかげで立ち直れました。

 トヨタに出張に来た人にその話をしたら、急に泣き出して「ぼくも明日死のうと思っていた」と話すんです。長期介護の末、母親を亡くし、毎日、機械相手の一人仕事で誰とも会話をすることがないそうです。「聞いてくれてありがとう。もうちょっと頑張りますわ」と言って、大きな花束をくれました。

 お客さんの中には「ここって、学校の保健室みたい」と言う方も。コーヒーが飲めるだけでいいわけじゃない。「売っているのはコーヒーだけじゃないな」って思っています。

 

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