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社説

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首相問責―民意を問う日に備えよ

 参院が福田首相への問責決議を可決した。きょうは衆院が内閣信任決議案を可決する。片や福田首相ではだめだと言い、片やこのままで結構と言う。権力の分裂状況を象徴する二つの決議で、国会は事実上、幕を下ろす。

 首相は総辞職もしなければ、衆院の解散・総選挙もしない。参院の問責決議には法的な拘束力がないからというのは分かるが、内閣を信任するかどうか、政治の基本のところで衆参の意思がぶつかりあってしまうというのは異常事態である。

 どちらに軍配を上げるのか、総選挙で民意に聞くのが筋だろう。それが政権につくものの正統性を確立する道だし、物事を決める力を政治に取り戻すことにもなる。そのことを改めて首相に求めたい。

 だが、内閣支持率が極端に低迷する中で、後期高齢者医療制度への猛烈な逆風などを考えれば、とても解散・総選挙を打てる状況ではない。これが与党内の共通認識だろう。沖縄県議選での惨敗もそれを裏書きしている。

 二つの権力が併存する状態は、とうぶん続くということだ。それでも、この「ねじれ国会」はそう悪いことばかりではなかったのではないか。

 ガソリン暫定税率や日銀総裁人事などで混迷したのは事実だが、難題と見られた国家公務員制度の改革では与野党が歩み寄った。歴史的なアイヌ民族決議など、実りも少なくなかったことは見逃すべきではない。

 「ねじれ」状況の中で、対決と協調が交錯するのは当たり前のことだ。ただ、参院で否決されても衆院で再可決できるという、ほとんどあり得ないような多数を与党が握っていたため、妥協より対決が前面に出がちだった。

 問題は、再可決頼みの政治をいつまでも続けるわけにはいかないことだ。

 この秋には、消費税などの増税をどうするか、負担の問題に結論を出さねばならない。それを先送りしてきたツケが、高齢者医療をはじめ社会保障の制度論議がどれも袋小路に入ってしまうゆがみに表れている。

 来年度から基礎年金の国庫負担が引き上げられる。財源手当ての論議は待ったなしである。問責決議で与野党の対決色は深まり、民主党はなかなか協調姿勢には転じられまい。首相は、こうした問題も3分の2の再可決で押し切れると思っているのだろうか。

 国民の負担増という難問に立ち向かうには、やはり新たに民意を問う必要がある。いつまでも先送りするというのでは政治の責任は果たせない。

 一方の民主党をはじめ野党も、税制のあり方や社会保障などについて、政策の枠組みをきちんと有権者に示すべきだ。それによって与野党の対立軸ははっきりするし、逆に協調すべき政策も整理されてくる。

ヤミ金判決―暴力団の資金源を断て

 法外な高金利で貸し付けるヤミ金融業者には、利息分だけでなく元金も返さなくてよい。すでに返してしまっていても、全額取り戻せる。

 こうしたヤミ金の息の根を止めることができる画期的な判決が、最高裁で示された。

 これまでの裁判では、いったんヤミ金に返した金については、金利分は取り戻せたが、元金は必ずしも取り戻せなかった。ヤミ金は生き延び、法定利率を千倍も上回るような利息で貸し付けを繰り返してきた。借り手を脅して取り立て、自殺者まで出してきた。

 最高裁の判決は、こんな悪循環を断とうというもので、次のような論理を展開した。

 民法には、賭博の資金のように、不法な行為のために渡した金は返還を求めることができないという規定がある。ヤミ金が貸した元金も、違法な利益を得るためのものだから、借り手は返す必要がない。

 ヤミ金の金を貸す行為そのものを不法と判断したのである。取り立てに泣いてきた借り手を救ううえで、これほど強力な武器はない。最高裁の判断を高く評価したい。

 ヤミ金は暴力団の有力な資金源である。今回の裁判でも、被告は「ヤミ金の帝王」と呼ばれた元暴力団幹部だ。山口組系旧五菱会によるヤミ金を統括し、巨額の収益をスイスの銀行などに隠していた。

 判決を機に、ヤミ金を追いつめ、暴力団の資金源を断っていきたい。

 まず、被害者に泣き寝入りせずに立ち上がってもらいたい。違法にむしり取られた金を取り返すだけでなく、ヤミ金から金を吐き出させることにもなる。相談先がなければ、法テラス(電話0570・078374)に連絡すればいい。弁護士を紹介し、金がない人には費用を立て替えてくれる。

 弁護士の役割は重要だ。被害者は全国にいる。被害の掘り起こしと対応に、各弁護士会も努力してほしい。

 警察にはヤミ金に対する徹底的な取り締まりを求めたい。高金利や脅迫的な取り立てなどで07年には約500件を摘発し、被害者は15万人にのぼった。だが、潜在的な被害者はまだ相当いるとみられる。3社以上から借りている多重債務者は約400万人といわれ、こうした人を狙って貸し込むのがヤミ金融の手口だからである。

 判決では、どれほど法外な利率ならば、元金も返さなくていいのかという基準が具体的に示されなかった。

 政府と国会は、こうした点を補ったうえで判決内容を法制化すべきだ。

 ヤミ金に対しては、無登録業者への罰則の強化などの法改正が重ねられてきたが、十分ではなかった。その反省に立ち、ヤミ金や暴力団を追いつめる立法をさらに考えてもらいたい。

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