福田康夫首相は、日本の地球温暖化対策に関する「福田ビジョン」を発表した。「低炭素社会」への転換を目指し、温室効果ガスの排出枠を企業間で売買する排出量取引制度を今秋にも試行的に導入するなど踏み込んだ内容となっている。
主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)が約一カ月後に迫っている。ビジョンは日本が議長国として温暖化対策に積極的に取り組んでいく姿勢を明確に示すことで議論をリードしたいとの意欲をうかがわせる。
首相は二〇五〇年までの日本の排出量削減の長期目標について「現状から60―80%の削減を目指す」との方針を打ち出した。五〇年までに世界全体の排出量を半減させるのが各国間の大勢になってきた中で、発展途上国の参加を促すためにも日本が相当の責任を負うことが必要との判断だろう。
しかし、注目された二〇年ごろの中期目標については明言しなかった。「二〇年に〇五年比14%減が可能だ」との見通しを示したものの、目標値は「来年のしかるべき時期に発表したい」とするにとどめた。省庁や産業界の抵抗、さらには米国や中国が明確な方針を示せないという中で交渉カードとして温存したい意味合いもあろうが、迫力を欠いたことは否めない。
首相が「温暖化対策にとって有効な手段の一つ」として導入に意欲を示したのが排出量取引の国内統合市場の創設である。国際競争力の低下や、排出量の購入に費用がかかることへの懸念などから鉄鋼や電力業界などの反対で、議論は進んでいなかった。
欧州連合(EU)では〇五年に世界初の多国間の排出量取引市場を設立している。米国でも複数の州が導入に積極的とされる。首相は「制度の問題点を洗い出すことに労力を費やすことから、より効果的なルールを提案するくらいの積極的な姿勢に転じるべきだ」と強調した。
とはいえ、排出量取引には不透明な部分も多い。企業に対する排出枠の公平な配分をはじめ、産業界に悪影響とならない十分な配慮も必要だろう。
温暖化が地球をむしばんでいる。将来に禍根を残さないためにも危機意識を強め、幅広い角度から国を挙げて積極的に取り組んでいかなければならない。しかし、一二年までの京都議定書にしても先進国に義務付けられた目標の達成はおぼつかないのが現状だ。しっかりと責任を果たしてこその「ポスト京都」への取り組みであろう。大枠の方向性は見えてきたが、足元も忘れてはならない。
日本水泳連盟は十日の常務理事会で北京五輪の競泳日本代表の水着について、水着提供契約を結ぶ国内三社以外の水着着用を認めた。北京五輪代表からの要望が高まっていたからだ。
五輪代表の水着問題は、英スピード社製の水着レーザー・レーサー(LR)で好記録が次々と生まれたことから起きた。北京五輪用として発表された新型水着は超軽量で撥水(はっすい)性に優れている。水着によって成績が左右される事態に、選手より水着の良しあしが議論されるのはおかしいなどの反発もあったが、国際水泳連盟は規定違反はないとの見解を示した。
LRの出現で、日本水連が契約する国内三社は「打倒スピード社」を目指して改良品をつくった。国内改良水着が優れているか、それともLRかを試す場となったのが、六日から八日まで東京で開かれた競泳のジャパン・オープンだった。
選手たちはさまざまな水着で泳いだが、結果はLRの圧勝となった。大会の三日間で、世界新記録一を含めて十七の日本新が誕生したが、十六はLRの着用選手によるものだ。圧巻は、男子二百メートル平泳ぎ決勝にLRを着て挑んだ日本のエース北島康介選手の泳ぎで、従来の世界記録を約一秒も縮めた。北島選手は、大会中に「正直言って、この水着は素晴らしい」と感想を語っていた。
LRは「高速水着」と呼ばれるまでに評価は高まった。日本選手も着用を認められたが、世界各国の選手がLRを着れば条件は同じになる。あくまでも勝負の主役は選手であることは間違いない。どの水着が自分に一番ぴったり合うか、選手は納得のいく選択をしてほしい。最高の条件を整え、自分の持てる力を存分に発揮すれば、国民の期待に応えられるだろう。
(2008年6月11日掲載)