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世界の論調批評 

世界の流れは、時々刻々専門家によって分析考察されています。特に覇権国アメリカの評論は情勢をよく追っています。それらを紹介し、もう一度岡崎研究所の目、日本の目で分析考察します。

NPO法人岡崎研究所 理事長・所長 岡崎久彦


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イラク情勢好転 [2008年06月01日(日)]
ワシントン・ポスト6月1日付社説が、イラク情勢の好転を論じています。

社説は、ここにきてイラク政府軍は初めてシーア派民兵を駆逐し、バスラやバグダッドのサドル・シティを制圧、また米=イラク軍は懸案だったモスルを攻撃し、テロリストの拠点をほとんど覆滅させた。

こうした状況を受けて、ペトレイアス将軍も、秋には予想以上の米軍撤兵が可能になるかもしれないと米議会で証言、さらに、戦況が好転した結果、マリキ政府は国民から「かつてない」大きな支持を受けていると指摘した、と言っています。

その上で、米軍のイラク撤退を公約したオバマは、その公約を実現できるようになるかもしれない。ただし、その撤退は、当初のように、戦争の失敗を想定してのものではなく、現在の改善された状況を維持するための戦略に基づくものでなければならない、と論じています。

イラク情勢が5月に入って好転しているらしいこと以外、しばらくイラク情勢の詳細に関する情報が入ってきませんでしたが、この社説によれば、イラク政府軍や米軍は、バスラやバグダッドのサドル・シティ、そしてモスルなどの重要拠点で反乱勢力を敗退させ、戦況は実質的に好転しているようです。

実際、統計では、5月の米兵の死者は21名であり、これはイラク戦争が始まって以来最低の数です。

6月に情勢がどう展開するか、期待が持てるようになってきた、と言えるでしょう。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:33 | イラク | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
増派作戦批判 [2008年05月07日(水)]
中東と南アジアの専門家であり、クリントン時代に国家安全保障会議の部長を務め、現在は外交問題評議会の上級研究員であるSteven Simonが、増派作戦を批判する論文をForeign Affairsに寄稿しています。

サイモンは、サダム・フセイン時代、政府や軍幹部などのテクノクラートはスンニ派のバース党員で占められていたため、イラク再建に必要な有能な人材を得るには、バース党の追放解除が必要だ。しかしそれはスンニ派の復権につながるため、多数派であるシーア派政権はこれを渋ってきた。

ところが米軍は、増派作戦を遂行するために、法律上の復権を待たずに、スンニ派部族に金と武器を与えて、軍事面で事実上復権させてしまった。今後、このことは部族対立の原因となるだろう。またスンニ派にしても、アメリカがスンニ派の完全復権、すなわちシーア派への優越を認めるはずは無いことはわかっており、従ってスンニ派の協力がいつまで続くかはわからない、と指摘しています。

これは全く正しい指摘と思われます。しかし、では、他に方法はあったでしょうか。こうしなければ、シーア派主導の政権に対して、スンニ派部族がアルカイーダと組んで抵抗する状況はいつまでも続いていたでしょう。結局、今の成果の上に立って、スンニ派穏健派とシーア派との協調を図るしかないと思われます。

サイモンはまた、早期撤退で事態が再び混乱する可能性があることを認めつつ、早期撤退を主張しています。要するに、民主党系の論客として、初めから期限付き撤退という結論があったのでしょう。ただ、民主党系は永く増派作戦の成功さえ認めない姿勢でしたが、ここにきてその成功を認めざるを得なくなり、そこで増派作戦は部族対立という新たな問題を産んだと批判する論を出してきたということでしょう。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:48 | イラク | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
チャラビーの貢献 [2008年04月12日(土)]
ウォール・ストリート・ジャーナル4月12日付でニューヨーク在住ライターのMelik Kaylanが、とかくの評判のあるチャラビーの指導によって、昨年2月に発足したPopular Mobilization Committee(PMC)が、バグダッド地域の安定に絶大な貢献をしている、と論じています。

カイランは、PMCは3000人のボランティアを擁し、バグダッド周辺の電気、水道の供給の改善に努力し、スンニー派とシーア派の和解にもつとめ、その毎週の会議には政府閣僚やペトレイアス以下の将軍たちも参加している、と指摘します。

その上で、PMCの最大の貢献は、PMCが現実に行なっている活動は別として、心理的な面にある、つまりPMCはバグダッドの――ひいてはイラクの――諸問題は、「底なしの大混乱というわけではなく、具体的に対処できるものであり、忍耐強く当たれば克服できる」ことを示した、と言っています。

チャラビーは、毀誉褒貶の激しい人物で、フセインに反対して亡命していた時も、ヨルダンでの銀行経営でスキャンダラスな行動があったとされ、また、イラクの大量殺戮兵器やフセインとアルカイーダの関係についてアメリカに誤情報を流し、アメリカの介入を誘った、とも言われています。
 
しかしいずれも、イラク解放の為に手段を選ばなかったのだ、と言えなくはありません。現に、ここ2、3年米政府から疎外されて権力から遠ざかっていた間も、外国に亡命することも出来たのに、危険を冒してバグダッドに留まり、イラクの民生のために活動しています。それはすべて愛国的な動機から、と言ってよいように思えます。
 
今後とも、イラクの政治情勢が難しくなったときに、出番のある人物であると思われます。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 14:47 | イラク | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
イラク問題で最大の脅威はイラン [2008年04月12日(土)]
ワシントン・ポスト4月12日付で同紙スタッフライターのKaren De Youngが、今やイランの脅威がアメリカの最大関心事となった、という解説記事を書いています。なお、ブッシュ大統領も4月10日に行なった演説の中で、新しい世紀の最大の脅威として、アルカイーダとイランを名指ししています。

デヤングは、ペトレイアス将軍とクロッカー駐イラク大使がイラクについて議会証言をする中で、アルカイーダにはほとんど言及せず、もっぱらイランについて話したこと、また、ある政府関係者が、「イラクでは、アルカイーダが壊滅したことで、イラン支援の武装民兵が最大の脅威になってきた」、と述べたことを紹介しています。

そして、イランがイラク・シーア派間の停戦を仲介していることを指摘し、これはアメリカが無力で、イランがイラクの事態を支配するに至っていることを示すものだ、と言っています。

その上で、しかしアメリカは最近、こうした現状にも利点があると思うようになってきた。なぜなら、マリキによるサドル派攻撃で、今までマリキ政権のシーア派傾斜を警戒していたスンニー派やクルドがマリキを支持するようになってきたからであり、また、アメリカがサウジ等のスンニー派諸国に、マリキ政権支持を呼びかけられるようになってきたからだ、と言っています。

この解説は、まだ、武力行使の可能性を含むアメリカの対イラン政策を論じるまでには至らず、それ以前の、イランの影響力増大の結果としての、マリキ政権支持をめぐるイラク内外の政治的駆け引きを論じています。逆に言えば、ワシントンの状況は、まだそうした段階にあるということなのでしょう。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 14:45 | イラク | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
イラクへのイランの影響 [2008年04月03日(木)]
ウォール・ストリート・ジャーナル4月3日付でアメリカのInstitute for the Study of WarのKimberly Kagan所長が、イラクへのイランの影響について論じています。

ケーガンは、イラク南部やバグダッドに巣食うサドル派に対するイランの援助は明らかだと論証し、今やイランがアメリカに対して代理戦争を仕掛けているのははっきりしているのだから、アメリカはその対策として、南部を制圧しようとしているイラク中央政府の側に立って必要な援助を与えるべきだ。また、アンバール州で成功したSons of Iraq運動(元スンニ派反乱分子に給料を払って地元の治安にあたらせる)を南部にも拡大すべきだ、と言っています。

昨日は、本欄で、国際政略研究所のAnthony Cordesmanが、イラク中央政府軍による南部攻撃の必要は認めつつも、米軍が再びイラク内部の紛争に巻き込まれるのを憂慮していることを紹介しましたが、ケーガンは、単純に、現情勢をイランの代理戦争と断定し、この戦いに勝つことを主張しています。

これらの主張は、おそらく両方とも正しいのでしょう。イランの代理戦争が起きるような状況が、イラク南部に存続するのを許すわけには行かず、その点はコーデスマンも言及しています。と言って、イラク内の派閥対立の泥沼にアメリカが巻き込まれることも避けねばなりません。

結局、これら2つの論説から、アメリカのイラク南部対策の輪郭も見えてきた感があります。それは、アメリカはこれら2つの問題意識を持ちつつ、緩急自在に対処すべきだということにつきます。そしてアンバール州で成功した手法についても、その適用が可能であれば、それに越したことはない、ということです。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:07 | イラク | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
バスラ情勢 [2008年04月01日(火)]
3月下旬、イラク南部のバスラにイラク政府軍が介入し、サドル派民兵と激しい戦闘を起こしたことについて、ニューヨーク・タイムズ3月30日付で戦略国際問題研究所のAnthony H.Cordesmanが論じています。

コーデスマンよると、@バスラは腐敗したシーア派のマフィア同士が争いながらも、一定の勢力バランス――ある種の暫定協定――を形成している、Aイランから強い影響を受けている、B石油輸出の重要拠点である、という意味で特殊な地域であり、中央政府が介入する理由はあるが、今回の介入がイラク全体の利益のためになるのか、中央政府の特定派閥の利益を目指すものなのか、判然としない。他方、バスラでの衝突がシーア派同士の内戦に発展してしまうと、昨年の軍事的成功は帳消しになってしまい、アメリカの軍事負担は増えてしまう、と言っています。

コーデスマンは、石油の主要輸出基地、またイランの影響力に対する防衛の最前線としてのバスラの重要性を認め、中央政府軍の介入の必要は認めながら、その結果については極めて懐疑的です。

その後、サドル派は停戦を宣言したと報じられており、このまま作戦中止になれば、コーデスマンが言うように、対立するマフィア間の勢力均衡状態や石油輸出は何とか続くことになります。しかし、イランの影響力浸透はそのまま放置されることになりますし、政府軍が勝利すれば、それはおそらくシーア派の特定派閥に益することになり、将来、不測の事態が生じる恐れがあります。

他方、政府軍と政府軍を支持するアメリカの攻撃が続くと、シーア派同士の新たな対立にアメリカが巻き込まれて、収拾のつかない状況に陥ってしまう恐れがあり、コーデスマンは暗にそれを懸念しています。

一つの望みは、やがて地方選挙が行われることであり、それまで停戦が続けば、コーデスマンの言う事実上の暫定協定に民主的なお墨付きが与えられることとなるかもしれません。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:50 | イラク | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
イラク情勢好転 [2008年03月09日(日)]
ニューヨーク・タイムズ3月9日付で米ブルッキングス研究所のMichael O’HanlonとJason Campbellが、イラクの現状を示す図表――軍・民の死傷者数、治安部隊数、産油量、政治面の達成等――を作成し、イラクは政治面でも進展を見せ始めている、と論じています。

それによると、オハンロンらは、政治面の進展について、地方選挙法の確立、石油収入配分についての合意達成、年金法や恩赦法の制定、連邦予算の通過、治安部隊へのスンニ派の参入、キルクーク市についての公正な国民投票の実施、政府省庁や治安部隊からの過激派の排除等を含む11の評価目標を設け、今のイラクには11点満点のうち、5点をつけられる。また治安面では、治安の改善と治安要員の増強、中でもスンニ派の参加に顕著な進展がみられる、と言っています。

そして結論として、イラクが安定と宗派間の協調に向かっていると言ってしまうのは早すぎるが、イラク政治は完全に破滅していると言うのは、イラクの新しい動きを知らない人の言うことだ、と主張しています。

イラク駐留米軍の死傷者数が、昨年10月に激減したときは、一時の現象か永続的なものかと疑心暗鬼になりましたが、この傾向が11月、12月、今年の1月、2月、さらに3月に入っても続いていることは、増派作戦の成功を裏付けているものと思われます。また政治情勢については、オハンロンらの評価では、目標の半ば近くを達成している状況のようであり、これらの傾向が今後も続くのであれば、イラク情勢は新たな進展を見せ始めたと言えるでしょう。これはまた、米国の国内世論にも影響を与えることになるでしょう。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:03 | イラク | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
イラクの政治情勢好転 [2008年02月14日(木)]
ニューヨーク・タイムズ2月14日付けは、イラクの政治情勢の進展を歓迎する社説を載せています。

それによると、イラク議会は、何ヶ月もの反目と抗争の末に、ついに予算案を通し、地方自治の大枠を決め、さらに、10月1日の地方選挙の実施と拘束者の恩赦を決定した。もっともこれらが本当に実施されるまでに、まだまだ紆余曲折はあるだろう。イラク議会は相変わらずそうした緊急性の認識が欠けているようだが、アメリカはその実現を支援すべきだ、と説いています。

イラクについては、昨年10月以来、軍事情勢は好転しているが、政治環境は改善されていない、と一般に見られていました。しかし今まで軍事情勢の好転さえなかなか認めなかったNYTまでが、政治面での進展を認めるようになったのは、米国世論の変化を覗わせます。

ブッシュについても、「ブッシュ政権は政治状況に十分注意を払わなかったが」とか、「撤兵の一時中断をやめる気はないらしい」と批判的な表現はしていますが、イラク政策を正面から否定する表現はしていません。

この社説を見ると、この夏に向けて、イラク情勢の進展、さらには進展しているというアメリカの国民一般の受け止め方の変化に、期待が持てそうな気がします。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:27 | イラク | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
新戦法がイラクとアフガンで効果を発揮 [2008年02月10日(日)]
ワシントン・ポスト2月10日付で、コラムニストのDavid Ignatiusが、1月に視察してきたイラクとアフガニスタンの戦場の状況を報告しています。

それによると、米軍は、特殊部隊による強硬作戦と、地域復興チームによる復興努力を平行して進めることで、どちらも成功をおさめている。これは米軍が過去の経験から開発した、ハードパワーとソフトパワーを組み合わせた新戦法であり、これを続けて行けば、今後米軍の長期的占領は、あまり政治的反発も招かず、また大規模な人的損害も蒙らずに、イラクの安定を達成できるかもしれない、と楽観的な見通しを述べています。

この新戦法の具体例として、イグネイシャスは、例えば、スンニ系住民をアルカイーダ支持から転向させることを挙げており、実際にバグダッドのある地域では、13のアルカイーダ拠点のうち11拠点は、元アルカイーダ・シンパの協力のお陰で攻撃することができた、と言っています。また電子機器による生体認証機能も導入されて、アフガニスタンではタリバンの特定に、またイラクではイランとの国境防衛に使われていることも指摘しています。

さすが現地を自分の足で歩き、現地の情報関係者と信頼関係で話し合えるイグネイシャスらしい報告です。また、アメリカのために、イラク作戦をなんとか成功させたいという彼の気持ちも伝わってきます。この気持ちがあるからこそ、現地の軍や政府関係者がイグネイシャスに腹を割って話をしてくれるのでしょう。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:09 | イラク | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
イラク・クルドへの警告 [2008年02月09日(土)]
ワシントン・ポスト2月9日付は、イラク・クルドに忠告するブルッキングス研究所のMichael O'HanlonとOmer Taspinarの論説を載せています。

それによると、クルドは、バグダッドの中央政府を蚊帳の外においたまま、外国投資家と地域の油田開発を始めており、またキルクーク市やその周辺地域の政治的支配権を掌握しようと独走して、イラク内三派(シーア派、スンニ派、クルド)の協調を乱している。クルドは、イラクが分裂するようなことになっても、究極的にはアメリカはクルドを支持してくれると思っているらしいが、見通しはそう甘くはない。クルドはイラク内の他派、そしてトルコと妥協することによって、アメリカとの絆を強めるべきだ、さもないとこの地域の不安定要因となってしまう、と警告しています。

これは、オハンロンらしい客観的、現実的な分析と警告です。特に、軍事リアリズムからの分析には鋭いものがあります。オハンロンは、クルドは、イラク戦が失敗に終わっても、アメリカはクルドとクルドの基地だけは手離さないから、大丈夫だとタカをくくっているようだが(またアメリカ人の中には、そういうことを言う向きもあるようだが)、クルド地域に空軍基地を作っても、周りに領空通過を許しそうな国がない上に、中東には基地を作る適地がもっとほかにある、と指摘しています。これは、今までの漠然たるクルドの期待に冷水を浴びせるものでしょう。

公正妥当な忠告と思われます。



Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:08 | イラク | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
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