指定暴力団山口組旧五菱会系のヤミ金融事件を巡り、愛媛県の被害者11人が「ヤミ金の帝王」と呼ばれた梶山進受刑者(58)に約3500万円の賠償を求めた訴訟で、最高裁第3小法廷(那須弘平裁判長)は10日、著しい高金利の取り立てを受けた被害者に対しては、利息分だけでなく元本分も返すべきだとの初判断を示した。その上で利息分のみの支払いを命じた2審・高松高裁判決(06年12月)を破棄し、賠償額を算定し直させるため審理を差し戻した。
民法は、社会倫理に反する不法な行為で渡した(不法原因給付)財産は返還請求できないと定める。小法廷は「不法原因給付により被害者が得た利益を賠償額と相殺するのは、法の趣旨に反する」と指摘。出資法の上限金利の年29.2%を大幅に上回る年数百~数千%の暴利で貸し付けた今回のケースは不法原因給付に当たり、賠償額から元本分を控除するのは許されないと判断した。
2審は元本分は被害者の利益になっているとして賠償額から控除し、計約1400万円の支払いを命じていた。一方、全国の176人が梶山受刑者に賠償を求めた別の訴訟で東京地裁は3月、元本分の賠償も認める判決を出し、判断が分かれていた。【北村和巳】
元本分も含めた返済全額の賠償を認めた最高裁判決は、端的に言えば「暴利のヤミ金融から借りた金は返す必要がない」というものだ。多重債務者の増加を受け、最高裁は借り手側の救済範囲を広げてきたが、業者の手元に資金を残さない今回の判決は、ヤミ金融撲滅への強い意思を示し、消費者保護を重視する姿勢を一層明確にしたと言える。
判決は一見すると「借り得」を認めたようにも見える。ただ、多重債務者らを標的に超高金利で貸し付けて脅迫的に取り立てるヤミ金融を巡っては、借り手の自殺や心中などが社会問題化した。暴力団の資金源になっているともされる。
貸金業規制関連法が06年末に改正され、無登録営業や超高金利融資への罰則は引き上げられた。しかし、ヤミ金融業者の特定は難しく、責任追及もままならないケースがある。判決は、法外な金利での貸し付けは保護の対象に値しないと断じ、業者に心理的圧迫を与えるとみられる。【北村和巳】
毎日新聞 2008年6月10日 22時22分