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【社説】

福田ビジョン 改定版が求められる

2008年6月11日

 地球温暖化対策の提案をまとめた「福田ビジョン」が、北海道洞爺湖サミットに向けて示された。排出量取引制度は導入されるが、中期削減目標は先送り。国民や世界への影響力は、まだ弱い。

 遠景は明瞭(めいりょう)だが、近景はぼやけて見えるビジョンである。二〇五〇年までの長期目標では、現状から60−80%削減と、欧州連合(EU)がすでに掲げた目標値を踏襲し、具体的な数字を挙げた。

 しかし、視野に入ってきた二〇年までの中期目標の設定は来年まで先送り、〇五年比で14%削減可能という「可能性」を示すにとどまった。

 日本が提唱する、産業分野別に削減可能量を積み上げて国別の目標値を設定しようという「セクター別アプローチ」の一例だ。が、これでは、森林吸収分が現状のまま認められたとしても、一九九〇年比では8%減にしかならず、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、必要量として求める25−40%にはほど遠い。第一、自国に有利になるように基準年をずらす数字の“マジック”が、世界に受け入れられるはずがない。

 「地球温暖化による影響がすでに顕在化している」と、福田ビジョンも述べている。より緊急性の高い中期目標については、再考が必要ではないか。

 国内排出量取引制度の導入を明言したのは、明らかな前進だ。EU域内の排出量取引市場は六兆円規模に成長した。国際的な温室効果ガス削減は、排出量取引抜きに成り立たなくなっている。

 だが、いくら「国内統合市場」をつくっても、参加企業に排出の上限枠(キャップ)を割り振らなければ、その意味はあいまいになる。自主的な努力だけで80%の削減が可能なら、初めから京都議定書など必要ない。上限が課されるから、排出削減への意思が働いて「革新的技術開発」の意欲がわき、そこに商機も開けてくる。

 福田ビジョンは「低炭素社会の主役は国民」という呼び掛けで結ばれる。だとすれば、国際間の駆け引きや産業界への配慮も大事だが、明確な目標を示して国民にマイカー利用を控え、節電を心がけるなどの行動を促す政治的意思と仕組みは、さらに重要だ。

 主役である国民に、事態の深刻さやそれぞれの役割を実感させるような「改定福田ビジョン」を早急に示してほしい。国内でリーダーシップが発揮できれば、国際社会に対しても、インパクトを与えるはずだ。

 

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