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【社説】

韓国政治混迷 国民のための『実利』に

2008年6月11日

 韓国の李明博政権は、発足から百日余にして全閣僚が辞意表明という異常事態に直面している。米国産牛肉の輸入問題が原因だ。国民の声に耳を傾け、国民のための「実利政治」への切り替えを。

 ソウルの中心街が連日の抗議デモで埋まっている。四月の米韓首脳会談における米国産牛肉の輸入制限撤廃合意がきっかけだ。

 就任百日を過ぎたばかりなのに支持率は80%から20%弱にまで急落して、政策全般への批判も強まり、大統領退陣の声も交じる。十日のデモはかつてない規模にまで膨れ上がった。

 これに伴い、政治の混乱の責任を取って首相を含む十六人の全閣僚が辞意を表明した。大統領は数日中に内閣改造を行う予定だが、反対派は再度の輸入禁止のため米国との再交渉を求めており、事態が収まるかは不明だ。

 李大統領は、国民の声をよく聞いて、柔軟な対応をする必要がある。今回の騒動の背景には、李大統領の売り物である「トップダウン」の政治手法に対する強い不信感があるからだ。

 牛肉の輸入制限撤廃については事前に国民に丁寧に説明することなく、米大統領と約束した。牛海綿状脳症(BSE)の恐れなど、国民の重大関心事である「食の安全」への配慮が欠けていた。

 李大統領はかつてない大差をつけて当選したが、国民はすべての政策について白紙委任したわけではない。まして国民は、大統領がかつてらつ腕を振るった会社の従業員とは違う。国民が大統領の月給を払っているのである。

 特に生活に直結した問題については謙虚に民意をくみ取る姿勢への転換が求められる。

 まして、十年ぶりの保守系の政権奪取とあって、反対勢力は李政権の失政に目を凝らしている。攻撃材料を自ら与えるようなことをすれば、政治の混乱は必至だ。

 大統領はスローガンの「実利政治」を思い起こしてほしい。

 牛肉輸入の制限撤廃は、米韓関係修復や米韓の自由貿易協定(FTA)を進める環境づくりと判断したのだろうが、国民の利益や安全を犠牲にするような「実利」はないはずだ。

 一方で北朝鮮の核問題は「完全な申告」という重大な段階を前に足踏みしている。李大統領の登場によって日米韓、日中韓の連携立て直しの最中だ。

 韓国の政情不安は北東アジアの安定にも影響を与えかねない。隣国としても大いに気になる。

 

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