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社説:水害サミット 地域力のネットで「減災」を

 ミャンマーの大洪水や中国の大地震で自然災害の恐ろしさが再認識されている。日本でも集中豪雨に襲われるケースは年々増える傾向にある。

 水害が発生すると、市町村長は極めて厳しい立場に立たされる。しかし、大半は過去にこうした体験を持たない。そこで、近年水害を経験した首長が一堂に会する場として「水害サミット」がスタートした。4回目の今年は「水害発生時の首長の苦悩と対応について」をメーンテーマに、全国から20市町村長が参加した。

 水害発生時、首長は避難勧告、避難命令、さらには本流の堤防決壊を防ぐために支流にある水門の閉鎖、ポンプの稼働停止などを指示しなくてはならない。

 不的確な指示は、住民の不信を増すだけだ。河川の水位、上流の雨量など最新のデータ収集が指示の大前提となる。これまでの「水害サミット」でも、独自の収集策が提案され、導入した自治体も少なくない。

 越前市(福井)では、水位の上昇に合わせて事前に、対策本部の設置から避難指示までの行動計画を立てておき、住民にも公表し周知徹底させている。

 本流の破堤を防ぐことを優先し、支流のポンプを止めれば、その周辺は水没する。事前に所有者には水没の可能性を伝えておくことが、トラブルの抑止には効果的との報告もあった。

 被災地域の多くは高齢化が進んでいる。高齢者が高齢者を介護し、搬送しなくてはならない。三条市(新潟)では要介護者と介護者とのマンツーマン・リストを作成し、双方に確認させている。リスト掲載には本人の同意が必要とされている。作成には根気がいるだけに、未作成の自治体も急ぐべきだ。

 さらに要介護被災者の収容先として、地元の病院、社会福祉施設と事前に協定を結ぶ市町村も少なくはない。復旧活動を促進するよう建設業者などと災害時には優先的に建設用機材の提供を受ける協定を結ぶ自治体も増えている。被災時の食料や水を確保しようと、他の自治体と融通し合う協定の締結も進んでいる。

 水害体験を風化させない工夫も必要だ。戦後まもなく二つの台風で死者・行方不明者約600人を出した一関市(岩手)では、当時流されながらも奇跡的に救助された女性の体験談を、市民の手でミュージカルに仕立て、上演した。6歳から75歳までの市民50人が参加した。

 防災、減災、復旧の新しいノウハウは次々に編み出されている。そこで、事務局が置かれている豊岡市(兵庫)を中心にインターネットに、「水害サミット・サイト」を立ち上げるよう検討を始めた。災害情報や最新の対応策をいち早く共有化する試みだ。被害を極力減らすには「地域の力」のネットワーク化は必須要件となっている。 

毎日新聞 2008年6月11日 東京朝刊

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