「ドクターはいませんか」。懸命に心臓マッサージを行う傍らで悲痛な声が上がっていた。東京・秋葉原の歩行者天国で起きた惨劇の映像にくぎ付けとなった。
トラックを運転して人込みの中に突っ込んだ男が、倒れた人や救護しようとした人をナイフで襲い、十七人が死傷した。被害者には何の落ち度もない。短時間で無差別の凶行では、防ぎようもなかっただろう。
将来、音楽マネジメントを夢見た芸大生や家の跡継ぎと期待されていた大学生、たまたまパソコン部品を買いに訪れた男性も被害に遭った。なぜこうも理不尽な犯行が繰り返されるのだろうか。
容疑者は二十五歳の派遣社員だった。周囲には、おとなしい人物とみられていたが、警察の調べに「人を殺すために来た。生活に疲れ、世の中が嫌になった。誰でもよかった」と供述している。
深い絶望感がうかがえる言葉だ。若者による過去の無差別殺傷事件でも、学校や職場から疎外されて自暴自棄となっている姿が見える。
フリーターなどの非正規雇用の若者が増え、働いても働いても楽になれないワーキングプア(働く貧困層)が拡大しているという。今回の凶悪事件と直接結びつけるのは性急かもしれない。しかし格差社会を是正し若者の不安や絶望を解消することも重要だろう。