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(第1回)メンタルヘルスの知識がない上司が壊した部下の心(2) - 07/02/22 | 09:00


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 そして、2度目の休職となり、このとき初めて、産業医である私に報告があったのです。それまで彼の上司が報告しなかったのです。その理由を尋ねると、「うつ病って、怠け病じゃないんですか?」と真顔で答えたのす。もう少しで「何のために私がいるんですか!」と怒鳴るところでした。

「今度、彼が職場復帰するときは私に相談するように」と、上司にくぎを刺しました。たとえ精神科クリニックの主治医が「治った」と判断したとしても、それは症状の改善でしかなく、元通りに仕事ができる状態とは限らないのです。職場に戻るにしても、時間をかけて少しずつ仕事量を増やすなどの配慮が必要です。それなしに職場復帰すると、再発してしまうのです。

 しかし、私の出番はありませんでした。彼の症状が少しよくなった頃、「散歩に行ってくる」と出かけたまま、帰らぬ人となってしまったのです。飛び込み自殺でした。
 弔問に訪れたお通夜の席で、彼の遺影を前に自分の無力さに腹が立ってしかたがありませんでした。近くにいたのに、彼を救うことができなかった。「もっと早く彼と面談して、胸の内を聞いていれば」と無念でなりませんでした。彼の上司は「残念でしたね」と、通り一遍の言葉を遺族にかけただけで、そそくさと帰っていきました。

 いくら会社が私のような産業医を雇っても、社員にメンタルヘルスの知識や理解がなければ、何の意味もありません。特に中間管理職の意識改革は不可欠です。うつ病になった部下を「本人の問題だ」と突き放すような上司がいる限り、メンタルヘルス不全を訴える社員は増えこそすれ、減ることはないでしょう。
 今回紹介した彼のような犠牲者をこれ以上増やしたくない。その思いを伝えるために、会社で心を病むことについて、次回以降も紹介したいと思います。

松崎一葉(まつざき・いちよう)
筑波大学社会医学系助教授 医学博士・精神科医
1960年生まれ。1985年筑波大学医学専門学群卒業。1989年筑波大学大学院博士課程修了。 医学博士。現在、筑波大学社会医学系准教授。また、日本産業衛生学会評議員、宇宙航空研究開発機構主任研究員、茨城労働局局医、東京都庁知事部局健康管理医、各企業の産業精神科医として、メンタルヘルス不全の治療および予防活動に取り組んでいる。専門は産業精神保健学。著書に、『会社で心を病むということ』(東洋経済新報社)など。
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