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【科学】

感染症に克つ 東南アジアの現状(上) 医療研修500人 地方に送り出す

2008年6月10日

エイズ遺児と近所の子供たち。右端はNGOのリーダーのソック・ソフィアクニアットさん=コンポンチャム州チェンプレ地区で

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 三大感染症のエイズ、結核、マラリアは、いまなお世界で年間五百万人の命を奪い、途上国の発展を阻害する大きな要因だ。途上国は、日本も資金を拠出する「世界基金」などの支援を受けて国をあげて感染症対策に取り組んでいる。東南アジアで最も深刻なカンボジア、べトナムの現状を報告する。 (論説委員・日比野守男)

 カンボジアの首都・プノンペンの市内にある「国立母子保健センター」。一九九七年四月、日本の無償資金協力でオープンした。

 手術室、分娩(ぶんべん)室、集中治療室などのほか、百五十床の入院病棟を備え、医師、看護師ら医療スタッフは四百人近い。母子保健分野では同国最大の施設だ。

 ここで生まれる新生児は年間約八千人。それでもカンボジア全体の新生児四十万人の一部にすぎない。プノンペン在住・近郊者以外はほとんどセンターの恩恵を受けられない。

 世界保健機関(WHO)によると、カンボジアの乳児死亡率はわが国の二十二倍。

 施設不足に加え、医療スタッフも不足しているからだ。ポル・ポト政権時代にインテリの多くが殺害され、生き延びた医師はわずか三十人だったという。

 この後遺症は今でも尾を引き、地方では医療スタッフ不足がより深刻になっている。

 そこでセンターが力を入れているのが全国の医療スタッフ、医学生、助産学生への研修で、安全な出産・中絶法、乳幼児への予防接種などに加え、エイズウイルス(HIV)の母子感染予防などを教育する。「これまでに約五百人を研修し、地方へ返した」と日本から派遣の小原ひろみ医師。「私たちがいなくなるのが最終目的だと言い続けてきた。おかげで“自分たちがやらねば”という自信が付き始めたようです」と医療スタッフの成長に期待をかける。

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 国際支援は地方ほど行き届かない。プノンペンから車で約二時間。コンポンチャム州チェンプレ地区にあるヤシの葉でふいた粗末な民家を訪ねた。

 七歳の女児と六十代の祖父母の三人暮らし。女児の両親は女児が生後三カ月のとき、エイズで亡くなった。

 貧困が続けば女児は学校へ行けなくなる。

 二〇〇六年から地元の非政府組織(NGO)が援助に乗り出し、魚の養殖で最低限の生活を維持する方法を教えた。同時に毎月一回巡回し、健康状態や女児の勉強の進み具合をチェックする。生活費の足しに現金も給付するが、その額は一家族当たり年間三十ドル(約三千二百円)。それでも地区の遺児家庭全部に行き渡らない。

 「予算不足でこれが精いっぱいです」とリーダーのソック・ソフィアクニアットさんは歯がゆさを隠さない。

 いまこうしたエイズ遺児はカンボジア全土で数万人といわれる。

先進国から見ればわずかな支援で多くの子供たちが救われるのだ。

 ベトナム国境に近いメモット地区では医療スタッフ不足を補うために、保健所の看護師から研修を受けたボランティアが各家庭を訪問し、健康上の相談を受けて保健所との橋渡しをしたり、マラリア感染予防用の蚊帳の使用促進を図っている。

 不十分な医療インフラの中で、医療・保健のレベル向上のために黙々と働いている姿に胸を打たれた。

 

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