「準備完了だ」。東京・秋葉原で17人が無差別に殺傷された事件で、殺人未遂容疑で逮捕された加藤智大容疑者(25)は、「犯行予告」を直前まで書き込んでいたのと同じ携帯サイトの掲示板に、刃物の購入やレンタカーの手続きといった「犯行準備」の詳細もつづっていた。淡々とした時系列の中に時折、暴力性がのぞく。その足跡をたどると、書き込まれていた通りの出来事が起きており、向かった先で加藤容疑者は目撃されていた。
【友達できない】不細工に人権無し【彼女できない】
これが、掲示板のタイトルだった。
事件3日前、5日の昼ごろから事件を起こそうとする気持ちが表れ始める。
「『誰でもよかった』 なんかわかる気がする」
6日未明、関心はメディアに。「やりたいこと…殺人 夢…ワイドショー独占」
7時前には、静岡県裾野市の自宅を出て福井市へ向かおうと、JR御殿場線で沼津に。そして東海道線に乗り換えたらしい。しかし、「飛び込み自殺で東海道線がとまりました」。
JR東海によると、ある男性が貨物列車と接触、この時間は東海道線は止まっていた。三島駅で東海道新幹線のこだまに乗り、名古屋駅でひかりに乗り換えて米原駅に向かう。10時半すぎには、「長良川超えた 堤防でいちゃついてるカップル、流されて死ねばいいのに」といった気持ちになっていたようだ。その後、特急で福井に。
12時40分ごろには、福井市のミリタリーグッズ店に加藤容疑者とよく似た男が現れていた。ナイフと特殊警棒を買った。「静岡から来た」。店長にそう言ったという。
肩には黒いショルダーバッグをかけていた。男は店員にショーケースからナイフを取り出させ、手にとると「これベニヤ板にも刺さる?」。次に両刃のナイフがあるケース前へ行くとブーツナイフを手に「やっぱ両刃じゃないとな」とつぶやいた。映画「ランボー」に登場するのと同型の大型ナイフは「やっぱ重いな」と返したという。
書き込みは続く。
13時09分 「買い物終了」。一人で回転寿司(ず・し)へ。その後、タクシーがつかまらず、ややいらついたようだ。午後2時半すぎには「タクシーのおっちゃんともお話した」。
このころ、ミリタリーグッズ店の入る複合施設の近くで、タクシー運転手(74)が加藤容疑者と似た男を乗せていた。ベージュ色っぽいスーツに運動靴姿。落ち着かない様子に見えたという。
赤信号で止まったり、渋滞で減速したりすると「道まちがってないだろうな」「早くいけ、早く」などとせかされた。「地元の言葉でもないし、道はよく知らない様子だった。若いヤクザかと思った」と運転手は振り返る。JR福井駅西口に到着後、車の外を偶然、警察官2人が通りかかると、しばらく車を降りなかった。
そのまま帰路、自宅へ。
19時27分 「帰ってくると現実に引き戻される気がして嫌だ」。帰宅後にナイフを5本買ったことを報告し、「とりあえず、投げてみよう」。
7日朝、東京・秋葉原へ。
「今日は秋葉原 お金をつくりに行く」
その後は東海道線に乗ったようだ。「隣の椅子(いす)が開いてるのに座らなかった女の人が、2つ隣が開いたら座った さすが、嫌われ者の俺(おれ)だ」「そういうことされると、殺したくなる」「川崎で乗り換えればいいのか 不細工な俺には、こんな乗り換えは難しいすぎる」
11時14分 「買取(かいとり)32000は舐(な)めてるだろ」
11時34分 「最低70000だ」
持ち物を売ろうとしている。
11時41分 「定価より高く売れるソフトもあった さすが秋葉原」
2時間後は決意がにじむ。
「さあ帰ろう 電車に乗るのもこれが最後だ」
その後、レンタカーを借りに行った。
13時50分 「大きいのが無かったら普通のでいいや できれば4tが良かったんだけど」
だが、トラックを借りる際に、クレジットカードの提示を求められたようだ。「どうせ俺は社会的信用無しですよ」と書きつつ、「小さいころから『いい子』を演じさせられてたし、騙(だま)すのには慣れてる 悪いね、店員さん」。
そして、「無事借りれた 準備完了だ」。