「誰でもよかった」とは、これまでの連続殺傷事件と同じ言葉だ。日曜日の昼、日本最大の電気街、東京・秋葉原の歩行者天国は惨劇の場と化した。二十五歳の若者を凶行に走らせたのは何か。
六月八日は七年前、大阪教育大学付属池田小で男が児童八人を殺害し、教諭ら十五人を負傷させた日だ。同じ連続殺傷事件が、最近ではゲームやアニメ商品を求める人たちの街「アキバ」としても知られる東京都千代田区の秋葉原電気街で起きた。
池田小事件は現場が学校という閉鎖空間だったが、今回は歩行者天国という開放空間だ。繁華街という点では一九九九年九月の東京・池袋通り魔事件と共通する。
車を暴走させてから刃物で人に襲いかかった犯行の経緯は、池袋事件から三週間後に起きた山口・下関駅通り魔事件と類似する。
いずれも無差別殺人であることに変わりない。買い物先で理由なくナイフで刺されては救われない。被害者や家族のやり切れない気持ちは察するにあまりある。
容疑者の男は静岡県から二トントラックを運転してきた。途中でインターネットの携帯電話サイトの掲示板に「人を殺します」などと書き込んでいたという。
「誰でもよかった」と十七人を殺傷した引き金になったのは何なのか。警察は犯行の動機を徹底解明してほしい。それが予防につながる可能性があるからだ。
男の境遇は事件と無関係ではなかろう。青森県で有数の進学高校を卒業後、岐阜県内の短大に進んだ。その後、静岡県内の自動車部品製造会社の工場で働いていた。進路への挫折はなかったのか。
男と同じワンルームマンションの住人は「おとなしい印象」と話している。見知らぬ土地で交友関係はどうだったのか。犯行への行動を掲示板に書く行為は存在を誇示したい表れか。同時に、表現したい相手が掲示板しかなかったとしたら、孤独感が漂う。
男は勤め先で派遣社員という立場だ。収入や身分保障が不安定で、ワーキングプア状態から脱出できない問題がクローズアップされている。男は「生活に疲れ、世の中が嫌になった」と供述しているという。
不遇から抜け出せない若者の、やり場のない怒りの矛先が無防備な歩行者や買い物客に向けられたのなら、凶行は繰り返されるおそれがある。格差や貧困の広がりを食い止め、若者が希望を持てる社会を築かなくてはならない。
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