7月の北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)に向け、福田康夫首相が温暖化対策の「福田ビジョン」を公表した。
国内排出量取引や再生可能エネルギーなどについて、従来より前向きな姿勢を示した点は評価できる。問題は、こうした覚悟をいかに具体性のある政策に結びつけ、実行に移していくかだ。
温室効果ガス排出削減の長期目標は、「2050年に世界の排出量を現状の半分に減らす」が世界の大勢であり、今回は、先進国として一歩踏み出す必要があった。「50年までに現状に比べ60~80%削減」との目標は妥当な数値だろう。
ただ、長期目標は40年以上も先の到達点であり、そこに至る道筋がなければ絵に描いた餅になってしまう。そのための重要な指標が2020年ごろまでの中期目標である。欧州連合(EU)は「20年までに90年比で20%削減」との目標をすでに掲げている。
福田ビジョンでは、日本は20年までに現状から14%の削減が可能との試算を示したが、中期目標そのものは示していない。
削減にあたっては、1、2年のうちに排出を確実に頭打ちにし、12年までの京都議定書の約束も確実に達成するという。また、再生可能エネルギーなど排出ゼロの電源比率を50%に引き上げるという。太陽光発電の導入量は20年までに10倍、30年に40倍に増加させるという。
再生可能エネルギーは日本が後れを取っている分野であり、実現には相応の覚悟がいる。たとえば、太陽光発電の目標を達成するには、新築持ち家住宅の7割以上に太陽光発電を採用する必要があるといい、これを進める政策が伴わなければ実現は不可能だ。
産業界から根強い反発のある「国内排出量取引」については、今秋、多くの業種・企業の参加のもとで、国内統合市場の試行的実施を開始するという。政府として前向きな姿勢を示したのは初めてだ。
ただ、すでに排出量取引については欧州などが先行しており、このままでは京都議定書後(ポスト京都)のルール作りに乗り遅れるのではないかとの懸念は一掃されていない。「効果的なルールを提案するくらいの積極姿勢に転じるべきだ」というのはその通りで、産業界も巻き込んで知恵を絞る時だ。
ビジョンは、国内対策に重点がおかれているため、やや内向きな印象も否めない。洞爺湖サミットでリーダーシップを発揮するには、さらに国際社会を引っ張っていくための戦略が必要だろう。
ビジョンの中で福田首相は「政治的プロパガンダのような目標設定ゲームに費やす余裕はない」と指摘している。これを国際社会に納得してもらおうと思うのであれば、日本自身がまず規範を示すべきだ。
毎日新聞 2008年6月10日 東京朝刊