トラックが猛スピードで走り抜け、後ろの2人の姿が見えなくなった――。東京・秋葉原の無差別殺傷事件で死亡した7人のうち、男子大学生2人は交差点でトラックにはね飛ばされた。一緒に歩いていながら、間一髪助かった学生(19)が、事件の状況を証言した。
死亡した東京情報大2年の川口隆裕さん(19)=千葉県流山市=と、東京電機大2年の藤野和倫さん(19)=埼玉県熊谷市=は、他の学生仲間2人と秋葉原の街を散策中だった。
4人はこの日、東京・新宿で映画を見た帰りに秋葉原に立ち寄った。みんなパソコンに詳しく、「用がなくても、よく一緒にぶらついた」。川口さんだけは別の大学だったが、川口さんと高校の同級生だった学生とのつながりで、4人は仲間になった。
中央通りを南へ向かいながら交差点に入った。2人が前を、「一歩後ろ」に川口さんと藤野さん。その間、1メートルもなかった。
次の瞬間。
学生は後ろの2人から「たたかれたような感じ」をうけた。振り向くと、猛スピードでトラックが走り抜けた。
「何が起きたか、分からなかった」。学生自身も飛ばされて転倒、腰を強く打った。
交差点から歩道に避難した。まず、横にいた仲間を見つけた。
「大丈夫か」
「大丈夫」
すぐに人だかりができた。ナイフを振り回す男が目に入った。
「2人がいない」
そう気づき、車道に戻った。川口さんと藤野さんは、交差点の中央付近に横向きに倒れていた。2人とも頭から血を流していた。
川口さんは衝突地点から5メートルほどの距離にいた。「生気のない目が自分を見ているような気がした」という。
「川口!」
通行人が心臓マッサージを始めた。「助かってくれ」。そう祈りながら見つめた。
藤野さんはさらに5メートルほど離れた場所にいた。服が引きちぎられたように破れ、下着だけが残っていた。
「藤野!」
懸命に名前を叫んだ。
2人とも、ぴくりとも動かなかった。
「横向きは危ない」。だれかがそう叫んだ。通行人が2人の体の向きを変えるのを手伝った。学生は、その瞬間を思い起こしながら言った。
「できたのはそれだけ。『なんとか助かってくれ』と祈ることしかできなかった……悔しい」
もう1人の仲間も打撲などで病院に運ばれた。
川口さんは一番の親友だった。高校では同じコンピューター部。学生の自宅に泊まりに来ることも何度かあった。寝ている学生のそばで、川口さんがゲームをしていたことなどを思い出す。
「心に穴があいたようだ。2人の死を、まだ信じられない」。涙をこぼし、そう語った。
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警視庁が現場の防犯カメラ映像を分析した結果、トラックは赤信号を無視し交差点に入ったことが確認された。(長崎潤一郎)