秋葉原の無差別殺傷事件発生直後から、膨大な数の映像が送られてきた。大半が居合わせた群集が携帯電話で撮影した写真で、警察官が犯人を捕らえる瞬間もあった 救急車到着前、道に横たわる被害者の近くを、悠然と過ぎる人も映っていた。惨劇が起こったことに、まだ気付いていないのだろう。日常と隣り合わせの地獄の怖さである アキバは、世界に誇るアニメやゲームの発信地として知られる。もっとも、良薬は強い副作用を持つ。新しい文化の街には、訳の分からぬ流行や愚挙も増殖する。優秀な品が手に入る一方、非合法な取引も後を絶たない。美と醜、独創と模倣、勤勉と怠惰、いくらも反対語が思い浮かぶ 惨劇を映した写真は、現場から次々と携帯に送信、コピーされて広がったという。犯人が携帯の掲示板に残したという犯行予告の不気味な書き込みも、電脳空間を通じて細大漏らさず知れ渡ってしまった 「クールジャパン(かっこいいニッポン)」の聖地を、1本のナイフが切り裂き、血に染めた。あと何度、同じ嘆きを繰り返せば、血染めのナイフの増殖はやむのだろうか。
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