湯沢と川崎市を行き来する高橋和介さん夫婦の部屋は、高さ100メートルの最上階。知人を迎え、四季の景観を楽しむのがたまらないという=新潟県湯沢町、津田写す
国内有数のスキーリゾート地、新潟県湯沢町でリゾートマンションに再び熱い視線が注がれている。80年代のバブルの遺産を購入し、都会と田舎を行き来する「2地域居住」を楽しむ人が増えてきているためだ。中心は大量退職が始まった首都圏の団塊世代。町も「地域再生の救世主」と期待を寄せている。
関越自動車道・湯沢インターから5キロほど離れたリゾートマンション「エンゼルグランディア越後中里」。早稲田大教授の大泊巌(いわお)さん(67)が2Kの一室を約290万円で購入したのは昨年末。以来、週末を利用して横浜の自宅から家族で訪れ、山菜採りやスキーを楽しんでいる。
92年完成のマンションは、ホテル機能を併設しており、総戸数は722。優雅な吹き抜けの玄関ホールを抜けると、目の前にはゲレンデが広がり、温泉大浴場やスポーツジム、プールを完備する。
大泊さんは来春、早期退職を考えており、湯沢を拠点にスローライフを楽しむつもりだ。「遊びの空間と時間が欲しいと思っていた。その答えが湯沢だった」
川端康成の「雪国」の舞台として知られる人口8500人の小さな町は、バブル期に建てられたリゾートマンションは合計で58棟約1万5千室に達した。「トンネルを抜けたらマンション群だった」とも揶揄(やゆ)された。
そんな湯沢のリゾートマンションに今、再び光が当たりつつある。地元のリゾート専門不動産会社「ひまわり湯沢店」の鈴木晶子店長は「車を買う感覚で購入する人が増えています」と話す。同社が昨年扱った売買件数は約300。ここ数年右肩上がりだ。首都圏の客が大半で、その7割以上を団塊世代が占める。
過去には投機目的を含め1億円以上で売買されたが、現在はその10分の1程度という物件さえある。同社が紹介するのは、30万円の格安ワンルームから3千万円の3LDKまで、と幅広い。温泉やプール付きが多く、軽井沢や箱根に比べて低価格。東京からの利便性もよく、苗場などスキー場が豊富なのも魅力だ。
現在、町に住民票を置くマンションオーナーは、3年前から3割増の518人。ボランティア活動に参加するなど、地域との交流を深める人も増えている。
一方で、温泉やプール付きのため管理費や固定資産税などに割高感を抱き敬遠する人も見られるという。
◆「町に活気を」地元期待
戦後間もない第1次ベビーブーム(1947〜49年)に生まれた「団塊の世代」は全国で約800万人。一方、内閣府の調査で週末に農山漁村で過ごしたい人は4割近くに達し、将来的に定住を望む人も2割を超えた。いずれも50代の願望が顕著だった。
「2地域居住者」が、2010年に190万人、30年には1千万人を超えるという国土交通省の試算もある。団塊世代の取り込みに全国の地方自治体がしのぎを削る。
湯沢も名乗りを上げた自治体の一つだ。ホームページなどを使って魅力をアピールし、昨年度は湯沢暮らしの格安体験ツアーも実施した。
上村清隆町長は「2地域居住者が町に活気をもたらす救世主になることは間違いない」とした上でこう呼びかける。「我々はアーバンリゾートではなく一流の田舎町を目指している。団塊世代の皆さんも自然あふれる『わが家』へ帰ってきませんか」(津田六平)