殺人や交通事故の被害者と遺族の思いを伝える「生命(いのち)のメッセージ展」。01年から始まった同展は今年3月、初めて刑務所内で開かれた。川越少年刑務所(埼玉県川越市)の受刑者300人は「生命の重さを初めて感じた」と、主催者に手紙を送った。企画した遺族代表の造形作家、鈴木共子さん(59)=神奈川県座間市=は「受刑者の心を少しでも動かすことができてよかった」と話し、機会があれば、また刑務所でメッセージ展を開きたいという。【三木幸治】
3月5日。灰色の作業着を着た受刑者が、続々と講堂に入った。犯罪で命を奪われた1歳から72歳までの113人が、等身大のパネルとなって展示されていた。パネルには写真や靴などの遺品、死を伝える新聞記事、そして家族のメッセージ。「何もいらないから、娘の笑顔を返して」。会場は静けさに包まれ、受刑者は涙ぐみながらパネルを見つめた。
鈴木さんにとって、同展を刑務所で開くのは、念願だった。00年、飲酒運転の車にはねられ、一人息子を失った。その5年半後、出所した加害者は謝罪の言葉を述べた後「1カ月に1回は連絡する」と約束。だが、すぐに連絡は途絶えた。「刑務所の矯正教育って何なの」。裏切られた思いが消えなかった。
06年に国会内で開いた同展を訪れた法務省関係者に鈴木さんが直訴した。「被害者の悲しみを受刑者に訴えたい」。思いは伝わり、川越少年刑務所から声がかかった。
刑務所から、受刑者の手紙が届いたのは約2週間後。自分の言葉で、びっしり文字が書き込まれていた。「これまで、反省や後悔をいくらしても被害者の思いはわからなかった。でも、今回、命の大切さに向き合い、考えることができた」「胸が詰まる思いで、涙が止まらなかった。この紙に思いを記すことはできないが、再び加害者にならないように誓いたい」
「加害者を許すことなんてできない。でも更生して、精いっぱい人生を生きれば、認めてあげることはできるのでは」。鈴木さんは今、そう感じているという。
〔都内版〕
毎日新聞 2008年6月8日 地方版