BOP
BOP、すなわちボトム・オフ・ザ・ピラミッド。巨大な人口を有する最貧困層のことを指す。これまで、ここはビジネスの対象ではなく、NGOや支援事業の対象と考えられてきた。
しかし、ここをビジネスチャンスとして捉える方たちの活動が、徐々にではありながらも、確実に注目を集めつつある。
「どうして、購買力も無いBOPにビジネスチャンスがあるというのか」、一般のビジネスマンからは、そんな声が聞こえてくる。
「まずは、援助で体力をつけることが先決」一方で、支援業界からはこんな意見を述べる人が多い。
ま、普通に考えれば、そう考えるでしょうね。私も、従来は、さすがにBOPはビジネスが出る場所ではないと考えていました。もしかしたらと思いはあったものの、どうしても確実なビジネスモデルを描けずにきました。
しかし、ようやくにして確実にそのモデルが描けてきました。今なら、はっきりと言えるのです。BOPはチャリティや援助が主役の場所ではなく、ビジネスが確実に主流になりえる場所であると。そして、すでに確実に収益を導き出し、ステークホルダー間のウィンウィン構築に貢献している方たちが存在します。
まずは、特殊な技術が必要とされる市場、つまりそれが活用できる市場だということです。例えば、医療や平和構築など特殊な技術が必要とされる場所が常に存在します。そして、今ではホットな話題の部類に入るであろう環境やエネルギーといった分野。
さらには、すでに供給不足が指摘されつつある食料分野。食として食料需要に加え、バイオエタノールなどへの転嫁に伴う需要増、そしてあまり指摘されることはありませんが、BRICSやネクスト11などの急成長に伴うライフスタイルの変化による飼料用穀物の需要増。これらのことは、とうの昔に研究者によって指摘されていた事柄です。
食料の需要増は、すぐに肥料の需要増/供給不足を引き起こすはずです。
これは言い方を変えるなら、確実なビジネスチャンスが存在していることを物語っています。
また、PB(プライベートブランド)コンサルティングの方々やマイクロファイナンスのように、独特のスキームとネットワークを武器に、すでに強固なビジネススキームを途上国で確立されている方々もいます。
JICAや世銀、国連機関なども、支援一本型の従来スタイルから、ビジネス業界との連携を前提にしたニュースキームの導入へと確実にかたちを変えつつあります。
これらのことにより、ビジネス業界は途上国のネットワークや独自の情報を入手することが可能となり、一方で支援業界は、継続的且つ自立的活動を約束するビジネスノウハウを活用することが可能となるはずです。
これら両者のマッチングは、さらなる周辺ビジネスの機会創出に結び付いていくはずです。
大きな地平線がみえてきました。(坂井)
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コメント
BOPに生きるビジネスモデルとはどのようなものなのか?
なんとなく想像はできるのですが…
少なくとも一国の中で完結するものではありませんでしょ?
その実行には、
多国籍的の人脈と、オペレーションマネジメントのノウハウが必要なのでは?
日本の中にいて金だけだすから後はうまくやってくれ
っていう発想の人には、とんでもなく難しい
ワールドワイドに生きてる人には案外手が届く
きっとそんなとこじゃないですか?
さまざまな実例紹介を期待してます
投稿 大浦 | 2008年6月 5日 (木) 20時21分
竹井さんの記事を通じて、こちらのブログを購読させてもらっているAkucchanと申します。
今日の日経朝刊、経済教室に安田洋祐氏の記事「注目集める『マーケットデザイン』」が掲載されていました。今までマーケット・デザインという考え方があることを知らなかったのですが、まさに今回の坂井さんの記事で伝えられている、BOPにおけるマーケット創造とつながるのではないかと思いました。
地球規模の社会問題に取り組むような場合に、マーケット・デザインの考え方は応用されるのでしょうか?ちょっと的外れかもしれませんが、何かリンクする考え方なのではないかと思いました。
投稿 akucchan | 2008年6月 5日 (木) 21時59分
>大浦様
はじめまして。
>少なくとも一国の中で完結するものではありませんでしょ?
ODAや海外企業の投資や技術支援が必要という前提を考えるならば、始まりからして一国の中で完結するものではありえませんよね。
ただし、ビジネスモデルそのもののお話をするのであれば、一国の中で十分完結しえるモデルが描けますし、まずはそこから始めるのが、手っ取り早い場合もあります。
私も今、幾つかのODA連携型のビジネスを、JICAと歩調をあわせて準備していますが、当初の目標は、国内の需要/供給スキームの設定と構築にあります。
>その実行には、多国籍的の人脈と、オペレーションマネジメントのノウハウが必要なのでは?
おっしゃるとおりで、そういう意味で、これから途上国の情報とコネクションを有している開発業界の方々やNGOの方々が重宝されるのではと思って書いたんです。
幾つか紹介したい事例はあるんですが、ある開発コンサルタントエージェンシーと準備中の案件もあるため、コンフィデンシャルなことをご理解頂ければと存じます。
また、本文で紹介した新手のODAスキームや世銀などの案件参入を活用した企業とのパートナーシップ構築の中にも、実は大きなビジネスチャンスが眠っています。
>さまざまな実例紹介を期待してます
プライベートブランドコンサルタントがいい例です。
世界最大手のデイモンワールドワイドという会社は、途上国相手の事業をビジネスとして実現し、実際、億とは一桁違う売り上げを誇っています(それが10億なのか、1兆なのかはご想像にお任せします)。
このビジネスモデル、あまり口外できないという業界事情もあり、私も関係者からは固く口止めされているところもありますので、ずれ紙面を借りて、許される範囲の中で紹介できればと思います。
具体的な実例も、自身の準備している案件の進展状況の中から紹介できればと思っています。
平和構築といったフィールドでも、十分ビジネスになりえます。これは、いずれ紹介します。
投稿 坂井 | 2008年6月 5日 (木) 23時55分
>Akucchan様
はじめまして。
マーケットデザイン、注目すべき考え方だと思います。特に途上国は、従来の需要、供給モデルを一筋縄であてはめるほど簡単にはいかない地域ですし、「見えざる手」に任せている余裕が無い場合がほとんどですから。
需要のベストマッチングという考え方を活かさないといけない場所が、まさに途上国市場なんだと思います。
逆に言えば、特殊な技術やサービス、情報が一般に考えられている以上に活きてくる場所だと思っています。
例えば、本文でも紹介した医療技術関係。これはユネスコやユニセフが、国連プロジェクトで使用するための認証制度を持っているのですが、先進国だけでなく中進国と呼ばれる地域からも、毎年、毎月、いや毎日といっていいほど、関連企業からの認証取得の申請がきています。
どうしてでしょうか。
国連のプロジェクトに資材調達されたところで、買い取り価格はたかがしれてます。場合によっては、手間を考えれば赤がでるほどです。
しかし、一旦こういったプロジェクトで活用されると、関係国間における認知度が一気に高まるんです。関係機関や途上国政府からの引き合いが、想像を絶するほど大きくなる。
この二次的効果を狙っているからこそ、多くの企業が国連の事業認証と実績を取りたがるんです。
国連やODAのプロジェクトには、こういう使い方もあるということです。
投稿 坂井 | 2008年6月 6日 (金) 00時05分
大浦さん
BOPに関してはこんな本もあります。BOPに関しては基本書かと思いますので、よろしければご一読を。
このブログのお勧め本コーナーでもリストアップしてますので、クリックひとつでamazonに飛んでいけます。
「 ネクスト・マーケット 「貧困層」を「顧客」に変える次世代ビジネス戦略 (ウォートン経営戦略シリーズ): C.K.プラハラード
投稿 竹井善昭 | 2008年6月 6日 (金) 04時47分
Akucchanさん、こんにちは。
>地球規模の社会問題に取り組むような場合に、マーケット・デザインの考え方は応用されるのでしょうか?
理屈の上では、大きく期待できると思います。
たとえば、地球規模の社会問題の多くは、グローバリゼーションの影の部分であることも多いのですが、これはスティグリッツ教授も言ってるように、本来うまくいくはずのものが、現実にはうまくいってないことに起因しているとすれば、これは制度的な歪みですから、
「現実の市場をうまく機能させるには(中略)ルールの整備や微調整といったマーケット・デザインが必要」(安田氏の日経記事より)
となるでしょう。
つまり、マーケット・デザインが問題解決の有効な手段になると考えられるでしょう。
しかし、問題解決のための最も大きな問題は、まさに「ルールの整備」ということにあります。
「ルールの整備」というのは、現実的にはほとんど政治の問題でありますが、政治的な判断は往々にして経済合理性を欠いていたりします。
市場をうまく機能させるためのルール整備を、政治が邪魔しているわけですから、経済制度ではなく、まず政治制度をメカニズム・デザイン理論で正す必要があるのでしょうが、具体的にどうすればいいかは、僕自身がメカニズム・デザイン理論のことをまったく理解していないで、思いつきません。 (>_<)ゞ
ちょっと勉強してわかってきたら、また記事にしますね。(汗)
投稿 竹井善昭 | 2008年6月 6日 (金) 05時36分
坂井さん、竹井さんコメントいただきありがとうございます。
私はエンジニアですので、経済の詳しいことはよくわかりません。しかし経済なくして技術革新が社会に起こるとは思っていないので、経済に関心を持つようにしています。
私の専門は光通信なのですが、ずいぶん前に参加した国際学会で国連の方が発展途上国への通信インフラに関する問題を報告していました(Refが見つかりませんが・・・)。途上国ではインフラ整備する資金がなく、世界的なデジタルディバイドが進んでいるといった内容でした。
私も大きな問題だとは認識したのですが、実際にどのようにマーケット・インすべきかの提案がなく、ボランティアや寄付で賄って欲しいくらいの話しだったと思います。しかし企業は事業で得られる利益を元に運営されているわけですから、ビジネスとして利益がなければ市場参加することができません。
恐らく、これまで先進国で開発を進めてきた方法と同じ方法では、資金的な破綻が起きると思います。通信インフラに限らず、食料、環境対策、エネルギーといった人間の衣食住に関わる基本的なインフラ整備のためにどのようなマーケットをデザインするのか、大きな課題ではないでしょうか。私もエンジニアながらに考えてみたいと思います。
投稿 akucchan | 2008年6月 6日 (金) 23時59分
みなさん、議論が深まってるようですので、自分も遅ればせながら、
「マーケット・デザイン」の記事、読みました。
結果
「よくわからん」
何がわからないかというと
学校選びや腎臓交換のようなわかりやすい範囲であればその有効性がナットクできるんですが
BOPに何がどう実務的に活かされそうなのか、私には想像がつかないのです。
みなさんに比べ、基本的な勉強が足りないので「ネクスト・マーケット」なんかでおいおい勉強させてもらいます。
で、それより6月6日の「企業の社会貢献の考え方」のほうが、しっくりきました。
「政治は投票行動によってよい社会へコントロールできると思っていたら、どうもそうとも言えない…
消費行動なら企業を誘導できるのではないか…」
実は解はその中間あたりにあって
どちらも
有権者、消費者、要するに、社会の成熟度にかかっていることは間違いありません
ただ
政治よりも企業の自己革新のほうが早いから
今のあたしの興味関心、本気で関与したいのは
企業の社会貢献と消費者の成熟のほうなんです
投稿 大浦 | 2008年6月 7日 (土) 11時40分