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文化

「蟹工船」が若者に人気 広がる格差、名作に脚光 

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ブーム再来で、若者を中心によく売れている小林多喜二の「蟹工船」=7日午前、神戸市中央区、ジュンク堂書店三宮店(撮影・大森 武)

 闘争に立ち上がる労働者を描いたプロレタリア文学の代表作「蟹(かに)工船」が、ブームとなっている。若者の熱い支持が特徴で「格差や貧困の広がりが、フリーターらの共感を得ているのでは」と識者。インターネットでも、過酷な低賃金職場の会社員の書き込みが注目され、今月、出版される。

 若者の街、東京・渋谷の書店。店頭の売れ筋棚に「蟹工船」が並ぶ。手に取った都内の大学生、岡本拓さん(19)は「昔、教科書で見た作品が売れていると聞き、読んでみようかなと」。

 都内で労組の街頭活動に参加していた勝間田翔さん(26)は、昨年読んだという。バイト先を解雇され、失業保険と貯金で食いつなぐ一方、解雇撤回を求めて労働審判中だ。「自分も、やられっぱなしで黙っているのは嫌だという気持ちはある」と話した。

 作品が再び脚光を浴びだしたのは今年二月ごろ。作者小林多喜二(一九〇三-三三)の没後七十五年の記事を見た都内の書店が、「ワーキング・プア(働く貧困層)?」の広告で売り出したのがきっかけだった。

■増刷30万部

 文庫版を出す新潮社によると、増刷は例年、年に五千部程度だったが、今年はすでに三十万部以上。購買層は二十代が全体の約三割を占めるという。「地方にも広がり、書店からの発注は衰える気配がない」と同社。

 生活困窮の相談を受ける「自立生活サポートセンター・もやい」の湯浅誠事務局長は「企業の横暴がまかり通る現在の状況を重ね合わせ、『おれの働かされ方と一緒だ』と思って読んでいる人が多いのでは」とみる。

■ネットで吐露

 一方、ネットの世界では、四年前に掲示板から恋愛物語「電車男」が出版され話題になったが、最近は世相を反映し、若者たちが仕事の悩みを切実につづっている。

 今月下旬に刊行される「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」(新潮社)。「2ちゃんねる」上の書き込みに、「電車男」と同じ編集者が目を付け、出版にこぎつけた。

 主人公はニート生活を経て小さなIT企業に就職した二十六歳の男性プログラマー「マ男」。徹夜も当たり前のきつい勤務、横暴な上司への怒りや無理な納期を断れない下請けの悲哀を感じながらも、「頑張れよ」「おつかれ」などの書き込みに励まされ、奮闘する。

 「自ら変わり、成長していく様子は、リアルな『現代の蟹工船』。悩んでいる若い人に読んでほしい」と担当編集者。

 女子美術大の島村輝教授(プロレタリア文学)は「生活への不安が広がる中、今まで見えにくかった『貧困』を正面から語る言葉を、読み手も求めだしたということではないか」と話す。

 「蟹工船」 北洋でカニ漁と缶詰め作業に従事する乗員たちが、監督からの非人間的な扱いに怒り、闘争に立ち上がる物語。1929年に発表され、現在は新潮社や岩波書店などが文庫版を刊行、漫画版もある。作者の小林多喜二は33年、特高警察の拷問により殺された。

(6/7 14:24)

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