『置き去りにされたマリア』

萩原葉子著 読売新聞社 1989年発行

 戦後、進駐軍の兵士にレイプされたことにより、売春稼業に入ることを余儀なくされ、性病と癌のために23歳という若さで死んだ女性の話。実話を基にした小説とのことである。
 あとがきによると、著者はデパートの古書店で『日本の貞操---外国兵に犯された女性たちの手記』という本を購入した。それには4人の女性の手記があり、そのなかで最も心を打たれた、故小野年子さんの手記のイメージを膨らませたとある。


 ヒロインは19歳の女性。空襲で焼け出され、両親も失い、横浜の叔母の家に身を寄せていた。ある夏の夕方、日本人の警察官に引き立てられて行くと、米兵たちのジープに乗せられ、山中で輪姦されることになってしまう。警官は米兵たちの手先だったのだ。裸の年子を見て、兵士たちは「You are like Maria」と感嘆する。マリア様に似ていると感動してレイプするなんて、いったいどういう信仰心なんだろう?命は助かるものの、彼女の苦難の人生はここから始まった。叔母の家に戻っても、皆、傷物になった年子をこれでもかと冷遇する。叔父に至っては、自分が清めてやると言って、年子を犯そうとする始末。いたたまれず家を出るものの、彼女に出来るのは米兵に身を売って金を得ることしかなかったのだ。
 年子の周りには、彼女のような人生を歩まざるを得ないものも珍しくなく、占領下の日本で、こんな悲惨なことがあったのかと少なからずショックであった。この小説に描かれる米兵の実態は、残虐無残でまるで獣である。民家に押し入り、娘の代わりにと懇願する母親を犯し、娘を犯し、幼女まで犯して死に追いやる。こうしたことが進駐軍のいた占領地では頻繁に起きていたのに、世間体を気にして、泣き寝入りをしていたのだ。


 この本を知るきっかけとなった『遥かな理想郷』でも、この小説のようなことは実際にあっただろうと述べられている。手記の形式で描かれ、読みやすい本であったが、それにしてもショッキングな内容であった。



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