今朝の産経は政治面に小さく「今国会提出を断念 人権擁護法案」という記事を載せています。記事は「修正案にも反対派の納得が得られない上、党法務部会(倉田雅年部会長)が慎重姿勢に転じたため、会期中に党内の法案了承手続きを取ることは不可能だと判断した」と伝えています。まあ、今国会もあと1週間あまりですからね。ひとまずはよかったですが、自民党人権問題等調査会の太田誠一会長らは、次期国会提出を目指す構えのようですから、闘いはまだまだ続きます。ここで油断してはいけませんね。
さて、それできょうは6日の調査会会合での議論について報告するわけですが、今回もまたイザブログの字数制限からかなり削ることになり、内容を絞らざるをえませんでした。法務省側の説明と、それに対する反論などは、ほとんど省きました。あらかじめご了承ください。まずは太田氏のあいさつからですが、いきなり読売社説の批判です。かなり感情的になっていることがうかがえます。
《太田誠一氏:私案を示し、世間からの反応をいただいた。某紙(読売)の社説は非常に鮮明で、「断念すべきだ」(と書いている)。読むと歴然としているのは旧人権擁護法案を読んでいないらしい。また私案も旧法も読んでなければ、分かるはずがない。旧法案は私も3回熟読した。やはりこういう1000万人いる読者を相手にする方々はわれわれ以上に責任が大きく、インパクトがあるわけだから、やっぱりもとの法案を読んで論評いただきたい。(中略)
例えば私は、前回の機会に今日、ここにご出席じゃないかもしれないけど、2回、二人の方々から「本音は何か」という質問が出た。一瞬、その、一時間ぐらいたっても何を聞いているのか私分からなかった。しかし、ひょっとしたらば、大変な悪意でいっておられるのかなと思いました。本音というのは何のことですか、と逆に聞きたいわけでございますので、どうぞ今日ご発言の中で、そう思われる方がおられましたら、もう一回お聞きいただきたい。そうしたらば逆に、私に本音は何かというのであれば、これだけ熱心にご発言いただいている、反対いただいているその本音は何かと聞かなくちゃいけない。聞かなくちゃいけない。
それから、もう一つはどこかの団体の決議か何かのことをどなたかが取り上げて、それだからこの結論が出るんだということでございますけど、それはどこかの団体の決議とかいうふうに言及されるならば、何の関係があるのか私と、ということをお聞きしないといけない。で、敢えて言ったような共通の知っておられる団体の人があるならば、それは、じゃあ、(自民党本部建物の)外で、熱心に頑張っておられる立派な団体の方々(人権擁護法案に反対する人たち)は、もしここで同じ主張をされてる方々がおられるならば、そのことについて責任を負えるんですか。私にどこかの団体のことを言うのならば、それはおっしゃっている方々も共通の主張をする団体について責任を負わなければいけないわけでございます。何の関係もないことだと思いますけれども、どうぞそういうことで、フェアなディベートにしたいと思いますので、よろしくお願いします。》
…太田氏は、この法案の推進と人権団体とは無関係であると強調しているわけですが、この言葉をそのまま額面通りに受け入れるのは難しいですね。この件に関心のある方は、私の2月16日のエントリ「真・保守政策研究会で平沼氏が明かした人権擁護法案の裏」、2月18日の「人権擁護法案と山崎拓氏の選挙をめぐる『密約』」、3月1日の「解放同盟は人権擁護法案について何を要望しているか」をお読み下さい。白々しいものを感じることと思います。次の西田氏の発言は、特に重要だと考えます。
《西田昌司氏:(前略)冒頭に太田先生が、要するにこれは本音の話、ということをおっしゃいましたんで、私もこれは申しあげたいんです。といいますのは前回も申しあげましたけども、私自身、京都に、地元に帰りまして、同和関係の団体の方から、非常にこの問題におそらく関連してでしょう、悪罵を投げかけられて、私の発言を阻止された。この6月27日に私は国政報告会を大々的にやる予定になっているんですが、そのときにそういう団体からですね、問い合わせがあるんですよ。いつあるんだ、と。まさにこれ、そういうことがされると、私、演説会自体、国政報告会自身できなくなる。ですから今警察の方に頼んで、いわゆる警護の、警備までしてもらわなきゃならい、本当におかしなことになってきているわけです。
何を申しあげたいかというと、私は京都に帰りましたときに、先輩の先生に、「西田くん、この法案の経緯を君、知っとるのか。反対しているようだけど」と言われたときに、おっしゃったのが、要するにこれは同和団体の要望を受けて、そして、今まではいろんな向こうに優遇があった。「それをやめさせた代わりに今度はこの人権擁護法をつくっていくんだよ。そういう経緯があることを君、分かっているのか」こういうことをおっしゃったわけなんですね。まさにこれが本音の部分でおっしゃったんだろうということなんですよ。
だから、だからこそ、そういう関係の団体の方が反論されてくる。そこがね、一番大きな問題なんですよ。それで私が言いたいのは、同和団体という方にもいろんな方がおられますからね、名乗っておられる方も含めて、おられるんですけども、非常に不幸なのは、こういう方が一部突出してしまうと何か全体がとんでもない話になるんですが、私も同和関係の方、存じてますがね、まともな方はまともなんですよ。ところが、そういう団体の、大きな力を背景にね、力で押していく、こういうことがね、市民が見てますから、京都なんかではね、これはちょっとどうなんだという空気があるわけなんですよ。だから今回の法律もね、そういう団体が為にすることに使われてしまうんじゃないのか、と。道徳律まで踏み込んだ話を法規制することによってね、また新たな自分たちの力の源泉となってしまう、そうなってしまうとこれは不幸じゃないですか。
だから、自民党がね、われわれが話さなくちゃならないのは、そんなきれい事じゃないんですよ。こういう現実をしっかり踏まえた上で、話していただかないと。個別の事情はもちろん大事かもしれないけども、本当に大事なのはここの部分でね、ここをやっぱり太田会長もね、ぜひご理解いただきまして、私自身、矢面にたって本当困っているんですよ。私は逆に彼らに対決するつもりも何もない、むしろそういうことを円満に本当に日本人として仲良く暮らしていくための仕組みをね、お互い考えたいと思っているわけなんですから、ぜひそこを論じていただかないと。これ本当にね、対決…。まさにこの法律の解釈の仕方、そのことが局長、目的じゃないでしょう。あなたとも話合いましたけれども。だからそこをね、政治の場できちっとしていただきたいと思うんです。》
…これに対し岩永氏が反論するわけですが、あまり説得力は感じられませんね。覚悟を背負った西田氏とは言葉の重みが違います。
《岩永峯一氏:西田君、西田さん。われわれは同和団体から言われてしている。そんな馬鹿なことは絶対ない。われわれは法務大臣から、ここへ来られて、つくってくださいと、だからみなさん方と話し合いしながら、一番理解ができるものは何かということを毎日毎日探っているんです。だから太田私案というものが出てきたのも、こんなものは背景にどんな団体があるか、こんな団体がある、そんなことで我々は動きません。鳩山邦夫大臣がここへ来て、そして一回、みなさん方に法務省はこういうような考え方を持っているということ、だから、ということを前提にしているということを一つ、お知りおきいただきたい。
太田氏:あの、今のお話しは分かりましたが、分かりましたけれども、それはわれわれは何の関係のない話ですので、どうぞまた個別のことはいろいろあるかもしれませんが、われわれはそういうことではありまえん。(岩永「大臣と政調会長が…」
西田氏:幹部の先生方のおっしゃったのはその通りだと思うんですよ。しかし、現実としてね、私現実に言っているんですから、私が受けている圧力、私が説明受けてきたこと、これは事実ですよ。これは否定できませんよ。先生方がやっておられることも事実かもしれないけれども、私が受けていることも事実なんですよ。これ本音で話すことだと先生おっしゃった。だから私は敢えて、本音のことを、言いたくないですよ私も、申しあげているんです。そこをですね、それは君、そういっているけどね、われわれそうじゃないよ、と、これを見て見ぬふりをされたらですよ
岩永氏:何もそうじゃないよと言ってないよ。
西田氏:いや、われわれはそうじゃないよと、おっしゃったんですよ。ですからそうおっしゃってしまったら、先生、これは議論が進まないですよ。これは。》
…岩永氏は、次に発言した稲田氏に対しても反論していますが、そのような建前論や原則論をいまさら繰り出してだれが納得するでしょうか。そうした背景なしに、どうして党内を二つに割ってまで、ほかにも社会保障でも食料問題でも重要な政策課題が山積している中で熱心に人権擁護法案の推進が図られなければならないというのか。
《稲田朋美氏:冒頭に会長から、本音で、ということを質問するんだったら、質問する者の本音を言えというお話しがありました。私が、真相は何ですかと聞いたのは、西田さんが今おっしゃったことと同じ意味で言いました。それに対して、法務大臣から言われているから、政調会長から言われているからというのでは私は納得しません。なぜなら私は掛け値なしで、日本の国の民主主義の根幹が揺らいで、言論の自由、政治活動の自由が萎縮するような社会になったら困るというその一念で発言しているというのが本音なんです。だから、推進派の方々もですね、メンツだとか、派閥の誰かから言われているとか、団体から言われているとか、選挙区事情とか、そういったことはやめて、そして本当にこの法律をつくらなきゃこの国が壊れるというその一念で発言してくださいということを言いたい。
ですから、法務大臣から言われたとか、政調会長から言われたとかいうのは何の関係もないんですよ。この法案に反対しているのはこういった法律ができれば、日本が萎縮した社会になっていわば平成の治安維持法なるものができて、私たちのようなはっきりものを言う政治家が抹殺されるわけなんです。(中略)
このような人権委員会のような強大な申し立てをされて、それが報道されるということだけで、政治家の政治活動が非常に萎縮するんです。それはひな壇の先生方も一緒なわけです。そうすると小選挙区になっただけでも、なかなかはっきりものが言えない政治家が多い。右でも左でもない、縦でも横でないような発言をするような政治家ばっかり増やしてもしょうがないじゃないです。私ははっきり自分の意見を言いたいわけです。それを言ったことを人権委員会に申し立てられたりして、政治活動の自由が制限されたくない。だからこの法案に反対しているということなんです。
岩永氏:あの稲田先生ね、われわれは法務大臣に政調会長に言われたから決めると言っているんじゃないんだよ。法務大臣、政調会長がやっぱりこのことをみんなに問うてくれ、と。それで決めるのはここで皆さんの議論をやね、ずっと積み上げて決めていったらいいと。だからそういう議論を今しているわけですから、だから派閥だとかそんなものは一切関係なしに、クリアにして、どういうところで円満な話し合いができるのか、それともダメなのか、いいのか。そのことを今議論しているわけですから、だからそんなものは前提になりませんよ。われわれは大臣に言われたから決めるとか、政調会長に言われたから決めるという話をしているんじゃない。》
…次の馬渡氏の指摘も大切ですね。正直なところ、福田リベラル・左派政権がこのまま続けば、保守派は次の選挙で投票先を失いますね。福田政権には何の期待も持てないならば、どうせなら変化がある分、民主党の方がいいや、と考える人も多いでしょう。自民党が内々に実施している五月の世論調査では、次期衆院選で自民は200議席を割り、反対に民主は230前後という結果が出たと聞きます。自民は、昨年の参院選の大敗をすべて安倍保守路線のせいにしてそのまま思考停止に陥っていますが、福田首相のもとで選挙をすれば、安倍自民には投票した保守派が離れる分、さらに恐ろしい結果となりそうです。
《馬渡龍治氏:(前略)それから本音の部分ですけども、会長。私は自分の意思でこの会に出席しています。誰から何を言われたわけではありません。私は当選をして、保守系と思われる方々からいろんなことを言われる中で、「自民党は一体どうしたんだ」と。この間の皇室典範のこともそうだし、この人権擁護法のこともそうだし、俺たち保守系がどの政党を頼ったらいいんだろうか。今の自民党は何なんだ、そういうおしかりをいただきます。このことをぜひ重く受け止めていただきたいと思います。
牧野たかお氏:今日はたまたま、さっきから話題になっている外国人に対する入店拒否が題材に出ています。私静岡県ですから、たまたま知ってますが、これで今日思ったのは、入店拒否、たまたまこれは裁判になりましたけど、これは浜松には4万人もブラジル人やいろんな方がいらっしゃるんで、こういうのはしょっちゅうあります。ただ、裁判を起こしてここまでなった方はたぶんこの人だけだと思うが、逆に犯罪もいっぱい起きていて、殺人事件の犯人引き渡しの交渉をずっとやっています。そういう地域ですんで、こういう差別的扱いは差別的扱いだが、これを本当に扱おうとすると膨大な数になりますよ。住民の方たちも慣習が違うので、彼らにダメだとなかなか言えないのが実情だが、公園で騒いだり酒飲んだり、集団でいますんで、子供さんたちが怖くて公園に出せないとか、そういうことも差別っていうふうにするならば、本当に相談件数が年間に何千件起きちゃいますけども、こういうものまで本当に扱おうとしたら、とても私は現実的には対応できないと思う。
それと、根本的な疑問ですけども、話し合いの解決を目指すというならば、今の人権擁護委員をそれをもっと制度を活用して、人権擁護委員の皆さんも、もっと機能が発揮できるようにしたらいいのでは。
山本幸三氏:社会とか国家が守ってくれるとう連帯感や擁護してくれるという意識がまったくなくなってきた。すべてのリスク自分で負わないといけない。これは社会秩序、社会安定を損なうような話なんで、駆け込み寺、そういうのが是非必要じゃないかなという気がします。(中略)私は太田私案はよく考えられたと思うんで、評価したいと思います。
赤池誠章氏:まずは徹底的に現行法の中でやることはやるという中で、それでも最後の最後は何があるのか、というところまで詰めていくにはまだまだ十分検討が足りないと考えています。》
…最後は中川氏でしめようと思います。中川氏は、太田氏に対し、はっきりと議論の打ち切りを迫っています。また、中川氏がわれわれ一般の国民が感じている不安の大きさについて指摘しているのは正しいと思います。鈍感な政治家、種々のしがらみから逃れられず目の曇った政治家には、なかなかそれが見えず、気づかないのでしょうが。
《中川昭一氏:今日は一問一答ということで、私も最初熱くなりましたし、みんな一生懸命ですから熱くなるということはある意味ではいいことだろうと思います。私が今日、前回と違って、人権擁護局長が積極的に一問一答でお答えをされているということもいいことだろうと思います。ただ、法案をつくろうとしている、あるいはその法律に基づいて行政がやろうとしている説明としては極めて曖昧な表現が随分…。不法行為に対しては抑制的に対応する、万が一それがダメなときは鉄槌が食らわされる。私は役人の言葉として、鉄槌を食らわすという言葉というのは一体何を意味しているのかよく分からない。それから、話し合いをお助けする。説得には当たるし、手助けはするし、でもそれだけです、と。その意味がよく分からないですねえ。で、後ろには法律が控えているからいいじゃないか。さっきもどなたかが言いましたけれども、司法だって必ずしも完全じゃない。だからいろんな議論があるし、三審制というものがあるし、えん罪もある。でもこの議論の中では司法が最終的かつ絶対だということに何か私は突然の変遷に不信感を覚えざるを得ないわけであります。
入れ墨の話がでましたが、もちろん暴力団の人が入れ墨をつけて、くりからもんもんで来るのはそれはもう一般人から見れから見れば、許せない話だが、でも若い人に流行っているあるいは外国人に流行っているタトゥーっていうんですか、あれと入れ墨をどう判断するのか。あなた暴力団の人ですか、といちいち聞くんですか。じゃあ、万が一、一般の人がタトゥーをしていて若干顔つきが悪いから、あんた暴力団ですか、と言われた瞬間に人権侵害だと逆に訴えられる可能性がある。あるいは子供同士の喧嘩の中で人権侵害があったときどうするのか。最初に訴えた方が絶対善だという前提に立ってものごとをやって果たしてうまくいくのかな、と。話し合いをさせるっていうけども、来た方からまず受けなきゃいけないんでしょ。そうするとそれを前提に事実認定するんでしょ。おかしいわけであります。
結論的にいうと、駆け込み寺と今日も塩崎さんがおっしゃったけども、駆け込み寺は江戸時代には役割を果たしていたと思いますけども、あまり駆け込み寺、駆け込み寺と言わない方がいいんじゃないのかな。つまり権力が駆け込み寺をやってやるっていうことを言ってるわけですから。今回の場合には。準司法的な機関が何か、あくまでも善意の宗教的な駆け込み寺のような役割を果たしてやるんだというのは、じゃあ、今までのADR、あるいは民事の調停、あるいは裁判、これがだめだから、今度はまた権力がまた駆け込み寺というものをつくってやる。これも権力に対して抑制的でなければならないというのが民主主義の大前提であるにもかかわらず、何か正義の味方を権力がつくるのはおかしいと思う。
私が知っている限りこれに賛成する人の話は残念ながら聞いたことはございません。そしてホームページに出しましたからはっきり言いますけれども「私は被差別の出身ですけれども、こんなものをやられたらとんでもないことになります」というメールも頂いております。これに対して一番恐れているのは一般の人たちなんです。われわれ政治家も、さっきの稲田さんじゃないけども、私も一発でやられるかもしれないけれども、一般の普通に生活している人が相手からやられちゃうということの不安感というものが反対に人たちの最大の原因だと思うので、ぜひその辺も十分配慮していただきたいと思います。
私は政調会長をやっておりましたが、ご議論をお願いしますとは言いましたし、その議論の結果、だめになったものも山ほどあります。もちろん提案するということは私のやりたいと思うこともありましたが、やりたくないと思うことも職制上やったこともありますが、いずれにしても前回の会議の雰囲気を見ても、今日の会議の雰囲気を見ても、これはとてもこの問題をこの前提を推し進めることはできないんじゃないかというのが私の結論でございますので、どうぞご判断を一つよろしく、太田会長、お願いいたします。》
…この日の会合には、山崎拓元副総裁も出席していましたが、発言はしていません。こういう若手議員の勇気ある議論を聞きながら、果たして何を考えていたのでしょうね。意外と何も考えずにボーッとしていただけだったりして。なんだかそれもありそうだなあ。
by hanausagi
人権擁護法案の今国会提出見送…