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2−1.プロットの構成

2004.8.17 改稿


1.プロットとは

 プロットとは、作品全体の設計図である。どういう筋書きで話が展開し、どういう結末を迎えるのかという未来像を明確に示したものである。
 プロットを作ることによって、ストーリーに破綻がないか、もしくは既存の作品に似たような作品はないか、などのチェックを行うことができ、また、実際に執筆しているときに読み返して、どういう作品を作ろうとしていたかを再確認したりすることができるようになる。

 普通プロットというと、あらすじのようなものを指す場合が多い。つまり、こういうものである。


 私の部屋に、笑顔の人形がやってくる。私は人形と友達になりたくて、いろいろなことを話しかけてみる。しかし、人形は答えてくれない。
 やがて、話すことが尽きてしまい、私は黙ってしまう。そして、なぜ人形が答えてくれないのかを考える。
 叩いてみたりすれば反応があるんじゃないか。そう考えて、私は人形を叩いてみたりする。しかし全く反応がない。だんだんとその行為はエスカレートしていき、私は人形をカッターナイフでぼろぼろにしてしまう。
 母親が私の部屋へやってくる。母親はぼろぼろになった人形や部屋の有様を見て、怒る。母親にとって、私の行為は全く理解できないものだったらしい。
 なんなとなく、人形の気持ちがわかったような気になる。母親にとって、私はあの人形のように、理解できない存在でしかないのだ。
 私は微笑む。あの人形のように。

 これはこのサイトに掲載している、「ほほえみ」という私の作品のプロットである。これを読めば、話の展開の仕方が一目でわかるように要約されている。たいがいの小説の書き方本に紹介されているプロットの形態も、こういう形のものが多い。

 しかし、実際に私が作業中に使っていたプロットは、こういう形をしていない。当時使っていたノートをある程度整形して挙げてみる。


■テーマ
 擬人法の批判。擬人法は人間の思考を他の動物や無生物に押しつけるが、そこに葛藤があるわけでない。人間の考えを他のものに押しつける残酷さを表現する。
 主人公の性別を不明なままにする。できれば読者が自然と自分をあてはめて読んでしまうような形にしたい。→主人公の設定を空洞化

■おおまかな流れ
 人形を擬人化しようとして失敗し、人形を破壊してしまう話。

■具体的な流れ
1.人形を人間に対してするように、ひたすら話しかける。
 ●人形の名前を聞いたり、出身地を聞く。
 ●私の学校の友達の話などをする。
2.話すネタが尽きて黙り込む。なぜ人形は答えてくれないのかを考える。
 ●嫌われているのか? → その割には笑顔でいる
 ●しゃべれないのだろうか?
3.あまりにも無反応なので、叩いてみたりする。エスカレートしてカッターナイフでめちゃくちゃにする。
4.母親が来て怒る。私と人形の関係と、私と母親の関係の類似から、私は人形のように微笑む。
 ●私が人形の気持ちを理解できないように、母親も私の気持ちを理解できない

■注意事項
 絶対人形を擬人化しない。主人公の主観を通してのみ人間であるように描写するが、実際に人形が喋ったりということはしない。
 主人公が本気で人形を人間だと思いこんでいるように見せつつも、どこかで「あれは人形なんだ」ということはわかっている感じにする。
 この主人公の性別はどっちなの? と聞かれるような作品には絶対にしないこと。

 見ればわかるように箇条書きになっており、筋書きだけでなく、実際にその筋を小説として仕上げていく上でこだわりたい部分、注意しておく部分などの注釈が一緒に書かれている。

 前者のプロットは、自分以外の他の誰かに見せるプロットである。たとえば小説大賞に応募するとき、作品の概要を1600字以内で書くように、というような指示がある場合があるが、そういう場合に提出するのが前者のような、あらすじ型のプロットである。
 しかし作業をして行く上で扱いやすいのは、体裁を整えた前者のようなものではなく、誰かに見せることを前提としてない後者のようなプロットではないかと思う。
 例に示したものはあくまで私がやりやすいように作られた形なので、それぞれ自分がわかりやすいようにまとめるといいだろう。

2.「主題」の決定

 それでは実際にプロットを作っていくことにしよう。その際にまず必要になってくるのは、「主題」の決定である。
「主題」は「作者がやりたいこと」と「作者が読者に訴えたいこと」という、ふたつの要素がある。
「作者がやりたいこと」というのは、たとえば「宇宙戦艦同士の大規模な艦隊戦がやりたい」などという、漠然としたアイデアのようなものである。
「作者が読者に訴えたいこと」というのは、たとえば「戦争はむなしいものである」などという、メッセージのようなものだと考えればいい。
 やりたいことというのは手段で、訴えたいことは目的だと考えてもらえば分かり易いだろう。目的と手段が決まって、はじめて明確なヴィジョンを描くことができるようになる。たとえば「京都駅に行く」という目的地が決まっていても、徒歩で行くのか、電車で行くのか、車で行くのかという手段が決まっていなければ全く動き出すことはできないし、逆に「電車で行く」という手段だけ決まっていても、目的地が決まっていなければ意味もなく右往左往するだけになってしまう。
 手段だけ決めてさんざんうろついたあげくに目的を発見するというプロットの構成の仕方もあるので、本当は絶対に目的・手段ともに最初から決めないといけないわけではない。が、ここではそういう特殊なやり方ではなく、あくまで基本的な手順を踏むことにする。

3.おおざっぱなイメージを作る

 主題が決まったら、その主題をやや具体的にしてみて、どういう話を通じて、その主題で決めたやりたいこと、訴えたいことを実現するのかを考える。
 要するに二題噺だと考えてもらえばいい。「やりたいこと」を使って、結論が「訴えたいこと」になるような話を作ればいいわけである。

 たとえばここでは、たまたま先ほど例に挙げた「宇宙戦艦同士の大規模な艦隊戦がやりたい」「戦争はむなしいものである」という主題を両立できる話を考えてみる。
 大規模な艦隊戦の爽快感と戦争のむなしさというメッセージは矛盾した主題であり、普通に両立させるのは難しい。
 両者を同時に成立させるのが難しいのだったら、たとえばこういうのはどうだろう? 最初、主人公は艦隊の隊長に抜擢され、自分の指示一つで全軍を操り、敵を次々に撃破していくという爽快感を描いていく。しかし物語中盤で、脱走兵や亡命者の乗った船を撃破するという命令が与えられる。目標の船には、かつての同僚や友人が乗っているのである。いままでただ爽快に、何の悩みもなく指示されたように敵を撃破していればよかったところに、このような葛藤が与えられるわけである。こうすれば、前半は大規模な艦隊戦の爽快感を出し、後半は戦争のむなしさを考えさせるストーリーになる、というわけである。前半での爽快感が、後半の影をより一層濃くする効果も期待できる。
 まとめると、こんな感じ。


 主人公は精鋭を募った強力な宇宙隊を指揮する司令官として、任務を着実にこなしていく。
 しかしそのうち、脱走兵や亡命者の乗った船を撃沈するという任務が度々来るようになる。同胞を殺す仕事に、疑問を持ち始める主人公。そんな中、ある撃沈を命ぜられた船に、かつての戦友や友人が乗っていることを知る。主人公は葛藤する。

 まだ話としては固まっていない状態ではあるが、なんとなく完成時のイメージができるようになってきた。

4.プロットの仮組み

 だいたいのイメージが決まったところで、いよいよプロットを仮組みしていく。
 まずはこのような表を作成して、先に作ったイメージを、表の中に組み込んでいく。

場所 登場人物 事件
10
20
30
40

 この表が使いにくいという場合は、各自使いやすいものを作ればいい。ちなみに数字が10刻みになっているのは、途中で間に別の事件を挟みたくなった場合に、「15」などと数字を付けることで容易に行えるためである。
 例として作ったイメージを表に当てはめてみると、こんな感じ。

場所 登場人物 事件
10  主人公は精鋭を募った強力な宇宙艦隊を指揮する司令官として、任務を着実にこなしていく。
20  しかしそのうち、脱走兵や亡命者の乗った船を撃沈するという任務が度々来るようになる。同胞を殺す仕事に、疑問を持ち始める主人公。
30  ある撃沈を命ぜられた船に、かつての戦友や友人が乗っていることを知る。
40

 こうして表にして並べてみると、明らかにこの話の流れには説明不足な点があることに気づくだろう。
 たとえば10の「任務を着実にこなしていく」というのが、一体どのような任務をいくつぐらいこなしているのか、という疑問や、30の「ある撃沈を命ぜられた船に、かつての戦友や友人が乗っていることを知る」の場合、なぜそのことを知ったのか、そもそも軍からは知らされていなかったのか、また、「主人公は葛藤」した後、結局その船を撃沈したのか、わざと逃がしたのか、 それとも一緒に亡命してしまったのか……

 これら問題点は逐一メモし、それに対するコメントや解決方法を、思いつくままにメモに書き足していく。


●10「任務を着実にこなしていく」→任務はいくつぐらい、どんなもの?
 →作品全体の分量が決まったところで調整する。あるいは初任務だけ細かく書く。→司令官に抜擢されて初任務で大戦果……というシーンを冒頭にしたら面白いか?

●30の「ある撃沈を命ぜられた船に、かつての戦友や友人が乗っていることを知る」→どのように知った? 軍は公表してなかった?
 →すぐに決めなくてもいいところ。ある程度煮詰めながら自然な方法を決めていこうか?

●そもそもなぜ亡命するのか?

●「主人公は葛藤」した後、結局どうした? →考えられる選択肢。
1.軍の命令に忠実に、船を撃破→しかしその後、それを悔やんだりする。
 →悔やんだ後、どうした?
2.命令に背き、逃がす→この選択肢の場合、話的にはその後発覚して軍法会議にかけられたりしないと面白くない。
3.戦友と共に亡命する→この選択肢は、「戦争はむなしいものだ」を伝えるには不適切な選択に見える。だいたいさんざん敵を殺すだけ殺して、都合が悪くなったら逃げてのうのうと暮らすような考えの主人公って魅力あるのか?
 今のところ候補は1か2。いずれにせよ、「戦争はむなしいものだ」のニュアンスを含ませる工夫が必要。そのまま使ってもダメそう。

●「葛藤する」ためには、それなりに友人が主人公にとって大事であることを描写する必要がある。友人とのエピソードは必須。

...etc

↑参考資料・実際のノート。クリックすると拡大します。

 これらの仕事は頭の中でやってしまってもいいのだが、できれば大学ノートでも用意して、ボールペンで書いていくのがおすすめ。書けば後で読み返したとき、自分が何を疑問に感じ、どんな理由でその場面を選択したか、という軌跡がわかる。こういうのは結構、煮詰まったときのヒントになったりするものである。
 また、書くことによってより自分の意志が明確、理論的になるという利点もある。

 このようにある程度一人会議をやったところで、煮詰められた成果を再びプロットとして作り直してみる。
 とりあえずこのような作業を繰り返し、作ってみたのが以下のようなプロットである。

場所 登場人物 事件
10 国境付近の宙域 主人公
先輩
政府高官
 主人公が所属する特務艦隊は、政府高官の護衛任務中に突然敵の奇襲を受け、旗艦を沈められてしまう。指揮系統が寸断され混乱する艦隊を主人公と主人公の先輩がなんとかまとめ、敵艦隊を追い払い、政府高官の乗る船の護衛に成功する。
12 上官のデスク 主人公
先輩
上官
 上官に報告する主人公と先輩。
 上官は主人公の同期の戦友が、偵察任務中に敵艦隊の奇襲を受け、戦死したという報告が入ったことを報せる。敵国は複数箇所で同時に我が国の宙域に侵入、奇襲をかけたらしい。
 上官は先輩を特務艦隊隊長に任命しようとするが、先輩は代わりに主人公を推薦し、自らは補佐に付くことにした。
15 式場 主人公
先輩
政府高官
 先の護衛任務での活躍に対し、政府から主人公へ勲章が授与されることとなった。
 授与式中に、敵国は先の奇襲による攻撃を狂言だと全面否定し、報復部隊を国境付近の宙域に集結させているとの情報が入る。
20 上官のデスク 主人公
上官
 主人公の艦隊に、敵の報復部隊を哨戒する任務が命ぜられる。
30 国境付近の宙域 主人公
先輩
 哨戒任務中。と、一発の砲弾が主人公の艦をかすめた。それと同時に動き出す敵艦隊。交戦許可が降りるが、圧倒的に不利。先輩が殿を務めると言い、その場に踏みとどまるのを残して、主人公はなんとか帰還する。
35 主人公の部屋 主人公
先輩
 主人公が仮眠を取っているところへ、先輩がやってくる。艦を撃破され少し怪我をしたが、脱出し、無事に帰還したらしい。
 主人公は先輩の様子が少しおかしいことに気づくが、特にそれを口にしない。先輩は帰っていった。
40 宿営地・主人公の部屋 主人公
先輩
同期の戦友
 任務中の宿営地にて、主人公の部屋に先輩がやってくる。先輩は戦死したと報告されていた主人公の戦友を連れてきた。
 戦友は、政府高官の護衛の際に奇襲をかけてきたのは敵に偽装した自分の所属する艦隊で、現政権にとって都合の悪かった政府高官の排除と、大義名分を得て敵国と戦争を起こすための画策であったことを告げる。戦友はその作戦に反対したため殺されかけたが、奇跡的に助かり、身を隠していたというのだ。
 殿を務め、艦を沈められた際に先輩を助けたのが戦友で、その時先輩はことの次第を知ったのだ。
 先輩は戦友と共に亡命するという。主人公も同行を勧められるが、主人公は本国に家族がいるので断る。
50 国境付近の宙域 主人公
先輩
同期の戦友
 次の日、先輩が脱走したことが知れ、主人公の艦隊に追撃命令が下る。渋々主人公は追撃を開始し、国境付近で先輩達の艦に追いつくが、かつての上官である先輩を攻撃するということで、士気も上がらない。
 と、そこに政府高官からのメッセージが届く。先輩と戦友を捕獲し、今回の事件の全容を公表するように頼んでくれ、というものだった。
 主人公は先輩達と特務艦隊のメンバーを説得し、先輩達を艦に収容、電波の届く位置まで急行する。
 
60 本国宙域 主人公
先輩
同期の戦友
 特務艦隊は本国の防衛艦隊を突破し、本国へ向けての電波放送が可能な宙域まで到達し、今回の事件の全容が公表される。
70 エピローグ  現政権は崩壊し、敵国とは停戦交渉が持たれる。
 軍命違反を侵した主人公達だが、政府高官の取りなしにより不問とされ、むしろ勇気ある行動と称えられ、昇格することとなる。
 しかし主人公はその後すぐに軍を退き、田舎に引っ込んでしまった。
 主人公は思う。あの事件を仕組んだのが、政府高官の方でない証拠がどこにあるのかと。そう考えると、もう誰も信用できない気がして、なにもかもがむなしくなってしまったのだ。

 これでとりあえず、小説が書けなくもない段階まで煮詰められたのではないだろうか。

5.練習−プロットの再構築

 我流ではあるが、以上がプロットの基本的な作り方ということになる。あとは各自やりやすいように応用して、プロットを構築すればいい。
 ただ、プロット作りは小説の構造を相当熟知して、分析、整理できる知識と技術が必要になってくる。初心者がいきなり「こうやりなさい」と言われるままに書いたところで、まともなプロットが仕上がるとは到底思えないというのが本音である。

 そこで、プロット作りの練習、ひいては小説の構造を理解するためにも、私は既存の作品を再プロット化する方法をおすすめする。どの作品でもいいので、自分の好きな小説をひとつ取り上げて、プロット化してみるといいだろう。
 これをやれば、自分がプロットを作るときの練習になる他に、プロが小説をどういう風に組み立てているかがわかる。また、ひとつの場面にどのくらいの分量を割いているかもわかるので、小説を書く上で、この程度の話なら、この程度の分量が要るという目安もわかってくるようになる。いろんな意味で役に立つ練習というわけである。

 ちなみに自分の作品を再プロット化すると、今まで気づかなかった作品の粗が浮き彫りにされるので、推敲の技術として心得ておくと便利である。いずれにせよ、再プロット化はやって絶対に損はない。


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