子育て

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷
印刷

小児科を守れ:/下 医師が来てくれた 市を動かし人件費工面

 ■いつ病院へ行けば

 兵庫県丹波市の「県立柏原(かいばら)病院の小児科を守る会」のスローガンは三つ。(1)コンビニ受診を控えよう(2)かかりつけ医を持とう(3)お医者さんに感謝の気持ちを伝えよう--。

 「でも、どのタイミングで病院に行けばいいんだろう」との疑問も生まれた。早速、母親向けの冊子を手作りすることにした。

 子育て雑誌などの参考資料を集め、柏原病院の医師のアドバイスを受けながら取り組んだ。完成は2月。A4判カラー12ページで、タイトルは「病院に行く、その前に……」。

 熱が出た▽せきが出る▽吐いた▽下痢--などの症状別にYES・NOのチャートをたどると、様子を見る▽かかりつけ医を受診する▽大至急受診する--といった回答にたどりつく。6000部のうち5000部を丹波市が買い取り、保育園や幼稚園、乳幼児のいる家庭に配布した。

 ■夜・休日の患者半減

 守る会の呼びかけは、目に見える成果をもたらした。

 柏原病院小児科に夜間・休日に訪れる患者は、04年度で月平均145人、05年度も129人に上っていた。「医師2人ではもたない」と判断した和久祥三(わくしょうぞう)医師(41)は06年度、広域での輪番体制を始め、当番病院を増やした。その結果、月平均の患者数は減少したが、それでもまだ78人に上っていた。

 それが「守る会」が「コンビニ受診を控えよう」と呼びかけた07年度は34人にまで減った。「守る会の成果だと思う」。和久医師は言い切る。

 同病院に医師を派遣してきた神戸大学大学院の松尾雅文教授(小児科)は「守る会の活動は革命的だ」と評する。「『コンビニ受診』という言葉は以前から言われてきたが、医師側からは発信しにくかった。丹波市は今、日本で最も小児科医が働きやすい地域だ」

 神戸大の小児科医の間で「応援に行きたい」との機運が生まれた。一方、丹波市も小児科医の人件費を負担する緊急事業(1500万円)をスタート。この結果、10月から、毎週土曜日の夜間当直と、専門外来の医師3人(月1回ずつ)の派遣が決まった。県立病院の人件費を市が負担するという、全国で極めてまれなケース。市の担当者も「守る会が市を動かした」と言う。

 ■互いを思いやる

 春。朗報が伝わった。ネットで活動を知った岡山県の小児科医が「ここで働きたい」と手を挙げたのだ。神戸大学からの常勤医も1人増員が決まった。小児科医は4人に回復した。ぜんそくの次男を抱え、当初からのメンバーの杉浦保子さん(29)は診察室前で曜日別の勤務表を見上げた。「真っ白だった勤務表に医師の名が埋まっていくのがうれしくて」

 3月。守る会代表の丹生裕子(たんじょうゆうこ)さん(37)は、千葉県東金市の公民館の壇上にいた。地域医療再生を考える市民シンポジウムに招かれたのだ。「私たちは活動を通じて、医療とは『施し』を受けるものではなく、医師と患者が互いに思いやることだと分かりました」

 会場の約200人から大きな拍手が起こった。(この連載は村元展也が担当しました)

毎日新聞 2008年6月8日 東京朝刊

子育て アーカイブ一覧

 

おすすめ情報