5兆円の借金を抱え、都道府県で唯一赤字決算が続く大阪府が財政再建案を発表した。事業費と職員給与の大幅削減、府有施設の売却や出資法人の廃止・民営化など、見直しはあらゆる分野に及ぶ。
橋下徹知事が、議論を公開して住民の関心を引き寄せ、短期間で一定の道筋をつけたことは評価していい。財政難で苦しむ他の自治体の参考にもなるだろう。しかし、知事自身が言うように将来展望がなく、住民に血を流すことを強いる内容である。
大阪府はバブル経済崩壊後、景気対策として府債頼りの公共事業を進めた。しかし、景気後退や企業の東京流出で収入の最大の柱である法人税収が落ち込み、財政悪化に歯止めはかからなかった。府財政は98年度以来9年連続の赤字だ。
橋下知事は2月の就任早々、「財政非常事態」を宣言。府の早期健全化団体転落を避けるため、9年間で6500億円、08年度で1100億円の収支改善を打ち出した。
再建案は、知事直轄のプロジェクトチームが4月に示した案のうち、警察官の削減や障害者福祉の補助金カットなどを見送り、医療費公費負担助成削減を1年先送りするなど、セーフティーネットは維持した。
一方で「原則起債ゼロ」の公約は守れず、退職手当債を185億円発行することで「1100億円」の帳尻を合わせた。
毎日新聞の住民世論調査では、8割以上が再建案に賛成する一方で、福祉や医療、教育経費の削減を不安視する声が目立った。
再建案をもとに編成される予算案は7月臨時議会で審議される。知事には事業や施設存廃の「政治決断」の根拠を丁寧な言葉で説明してもらわなければならない。補助金を削られた文化や福祉、中小企業関係者らへのサポート策を示すのも行政の責任だ。
チェック機能を果たしてこなかった府議会も、再建策の論議が進む中で、議員報酬カットや定数削減に動き出し、各会派が独自案を示すなど、議会のあるべき姿に一歩を踏み出した。
臨時議会では正面から知事に論戦を挑み、自治体が担うべき仕事は何か、住民負担はどうあるべきかについて、明確な答弁を引き出すとともに、議会改革を加速しなければ、住民の理解は得られないだろう。
府は今回、前例のない退職金カットや、これまで手を付けてこなかった私学助成削減にまで踏み込んだ。だが、府も大きな負担を求められる国の直轄事業は削減対象になっていない。
「住民に身近なサービスはできるだけ市町村で」という知事の言葉を実現し、より大きな無駄を省くためには国に権限と財源の移譲を迫らなければならない。そのうえで大阪の将来像を示してこそ、真の「改革」に近づく。
毎日新聞 2008年6月8日 東京朝刊