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2008年6月8日

◎県外出産の健診助成 婚姻圏の広がりに対応を

 石川県では妊婦が県外へ里帰りして出産した場合でも、県内での出産と同様に医療機関 による産婦健診と乳児健診を助成(無料)する市町が増え、加賀、能美、白山、かほく各市と津幡、能登両町の六自治体に達した。県内の市町は全部で十九だから、三分の一強である。

 近年、人の行動範囲の拡大とともに婚姻圏も広がった。こうした変化を受けて、この地 に嫁いできた女性たちへの配慮が必要になり、里帰りして県外で出産する場合も助成対象にすることになったのである。

 元気に丈夫な赤ちゃんを産んでもらい、少子化に少しでも歯止めをかけたいとの目的か らであるのはいうまでもないことだ。まだ実施していない自治体も速やかに対応してもらいたいものだ。

 たとえば先ごろ、今月、四月にさかのぼって実施することを決めた、かほく市の場合、 年間の出生届が約二百八十人であり、うち二十人前後が県外での出産である。こうした傾向は今やたいていの自治体にあるのではないか。

 津幡町が最も早く二〇〇六年度から初めており、他の自治体は昨年度から今年度にかけ て実施に踏み切った。まだ公表していないが、内灘町も近く今年四月一日にさかのぼって助成する方針だという。

 県内の自治体では、県内で受診した場合、妊娠健康診査五回、産後の産婦健康診査一回 、乳児健康診査二回の計八回を助成している。が、県外で里帰り出産する場合、自治体がそれぞれの医療機関と契約を交わさねばならず、その手続きが面倒なために県外での受診に対する助成が後回しにされたとの指摘がある。

 日本ではほとんどの妊産婦が定期的に受診する。妊婦健診では正常な妊娠の経過の確認 のほか、ハイリスク妊娠の早期発見などが目的だ。産婦健診では妊娠前の状態への移行が順調かどうかが対象だし、乳児のそれは発達・発育を診る。

 こうした健診が行き渡っている点で、優れた先進国なのだが、盲点、死角に置かれてい るともいえるのが県外への里帰り出産であるとの認識を持って対応したい。

◎サマータイム制度 利点ばかりではなさそう

 超党派の議員連盟が法案要綱をまとめたサマータイム制度について、日本睡眠学会が発 表した「健康に悪影響を及ぼす恐れがある」との反対声明は、拙速な導入論議に警鐘を鳴らす多くの指摘を含んでいる。

 日の出が早い夏に時計の針を一時間進めれば、照明や冷房費も節約でき、明るい時間に 仕事を終えれば余暇時間も増えるから消費が拡大する。サマータイムはこのように、省エネや経済波及効果の利点が強調されてきたが、睡眠学会は日本のように夜型タイプが多い国では睡眠リズムが乱れることによる健康への悪影響が懸念されるほか、省エネについても冷房などのエネルギー消費が企業から家庭へ移るなど、むしろ「増エネ」になる可能性を指摘している。確かに省エネ効果については諸説があり、健康面への影響も考えれば「早起きは三文の徳」と手放しで歓迎はできないだろう。

 過去に何度も議論されながら日の目をみなかった、この制度がにわかに脚光を浴びたの は、環境を主要テーマとする洞爺湖サミットが近づき、福田康夫首相も導入に前向きな姿勢を示したためだが、「サマータイム=省エネ」という単純な図式に押し込めては導入の可否について判断を誤りかねない。利点や弊害も含めて国民に論点を分かりやすく示し、論議をさらに広げる必要がある。

 日本睡眠学会の反対声明は、実施国での調査や文献をもとに分析し、日本で導入すれば 睡眠障害の悪化を招き、医療費の増大や作業効率の低下などで経済的損失も軽視できないという。過去にサマータイムを導入していた中国、韓国、香港は廃止し、ロシア、フランスなど実施国でも反対の声が根強いことを紹介している。

 さらに、交通機関や金融機関などのシステム変更の負担や、労働時間拡大の懸念など考 慮すべき論点は多々ある。サマータイムの推進議連は秋の臨時国会で成立させ、二〇一〇年からの導入を目指す方針だが、睡眠学会が投げかけた疑問点に丁寧に答え、日本の諸条件に適した制度なのか慎重に検討を進めてもらいたい。


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