チッソ(株)に対するガバナンスの弱体化を憂う (水俣病問題;その5)
2006年4月14日のブログに続く第5回目のエントリーです。
水俣病未認定患者の救済問題で与党プロジェクトチームがチッソの法人税負担軽減化を図る特例措置導入を検討中であると報じられています。
与党プロジェクトチームによる新救済策に対し、チッソが一時金負担を拒否する方針を表明したことから、問題が複雑化しました。
11月25日の朝日新聞は(チッソが)『株主の理解が得られないと言っている』との園田博之与党プロジェクトチーム座長のコメントを報じています。
一方的にチッソに追加負担を要求するだけでは、チッソの株主への説明責任などから、「チッソとして(与党案に)応じにくいだろう。」 よって、「こうした特例措置導入を検討している」 ということなのでしょう。
しかし、もしもチッソが『株主への説明責任を果たさないといけないから新救済策に応じられない』と主張しているのだとしたら、これはおかしな話です。
と言うのは、チッソの経営陣が真に説明責任を負うのは、我々国民に対してであって、約37,000人と公表されている『株主』と称される人たちに対してではないからです。
確かに現在の資本主義の枠組みからすれば、株式会社の経営者は株主総会で選任される取締役によって選ばれ、株主の長期的利益のために経営を行うことを期待されています。 これが株式会社のガバナンスの基本形態です。
しかし、チッソのように過去少なくとも十数年間にわたって1000億円を超える債務超過を計上し続けている会社の『株主の権利』とは一体何なのでしょうか。
彼ら株主は少なくとも自分たちが有する経済的価値(会社に対する残余財産の請求権など)はマイナスでしかないことを承知しているはずです。
1000億円を超える債務超過を計上し続けている会社が倒産せずして生き続けているのは、国、熊本県、関係金融機関が協力しながらチッソを支えて金繰りをつけているからにほかなりません。 実態的には、チッソを支え続けている、こうした債権者、すなわち、国、県、金融機関こそがチッソの真の所有者であり株主であるとも言えましょう。
チッソに対する金融支援の仕組みは、熊本県が県債を発行して資金を調達し、チッソに対して貸付を行うというものです。そしてこの県債の大半を国が引き受け、しかも国はこの枠組みのもとで『県の財政に迷惑をかけない』との趣旨の閣議決定までしています。
言ってみれば、国こそがチッソに対する最大の債権者(与信提供者)であり、これは要すれば我々国民のカネのはずです。
チッソの経営者は、株主価値が『マイナスの価値』でしかないことを知りながら、チッソの株式を所有している『表面上の株主』に対する説明責任を気にするよりも、長期、短期合計で約1770億円の貸付をチッソに対して行っていてチッソを支え続けている『債権者』のことを考えて経営をしなくてはなりません。そして国(要は国民のことです)こそが、ここでの最大の債権者であることを認識するべきです。
本来であれば、こうした債権者がもう少し前面に出て、デット・エクイティ・スワップと言われる債務の株式化を行うとか、株式に転換しうる優先株の仕組みを利用するなどして、株主としてのプレゼンスを高めて、チッソ経営陣に対するガバナンスを強化していくべきなのだと思います。
チッソの(陰に隠れた、しかし真の)所有者とも言うべき債権者たちが、前面に出るのを恐れる余り、チッソに対するガバナンスが効きにくくなっているのだとしたら、チッソに対する金融支援のスキームそのものが国民の支持を得られなくなってしまうだろうと思われます。
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