社説(2008年6月7日朝刊)
[国籍法違憲]
人権に配慮し画期的だ
「婚姻の有無を家族関係の絶対的基準に据え置くことは時代に合わない」―法律上の結婚をしていないフィリピン人の母と日本人の父から生まれ、出生後に父から認知を受けた子ども十人が日本国籍を求めた二件の上告審で、最高裁大法廷は子どもらの国籍を認める判決を言い渡した。
判決は婚姻を国籍取得の要件とする国籍法の規定について「不合理な差別で法の下の平等を定めた憲法に反する。子の被る不利益は看過し難い」と断じている。
現実の流れを踏まえ、何よりも差別的な扱いを受けていた子どもたちのことを考えれば、画期的な判決と高く評価したい。
よくよく考えれば国籍法には不合理な点が目に付く。
出産によって親子関係が認められる母が日本人の場合は、婚姻の有無にかかわらず、子どもはすべて日本国籍が取れる。
問題は母が外国人で、父が日本人の場合である。
妊娠中に父が認知していれば、出生時点で日本人の父がいることが分かるため、胎児認知として日本国籍となる。結婚は要件とならない。
認知が出生後になっても、その後父母が結婚し、届ければ日本国籍が取得できる。これでは、国籍取得の線引きの理由について納得のいく合理的説明ができないのではないか。
今回の訴訟は、生後認知しても、結婚しなければ日本国籍を認めなかったことから起こされたのである。
根本には、結婚すれば認められ、結婚しなければ認めないという理不尽な考えがあり、婚姻の有無を家族関係の基礎に置いているからである。判決は「合理的理由のない差別」と言い切った。
原告の中には、同じ家族でありながら、日本国籍が取れなかった姉と、取得できた妹が実際に存在する。
姉は、父が約一年後に認知したものの、非婚を理由に日本国籍を取得できず、妹は胎児のうちに認知されたため日本国籍となった。
判決は、婚外子の増加など家族生活や親子関係の実態の多様化を踏まえ、「婚姻で日本との密接な結びつきの強弱は測れず、今日では必ずしも実態に適合しない」と現状を正確にとらえている。
外国では婚外子への差別的な取り扱いを解消する方向にあることを挙げ、国際的な流れに沿った判決ともなった。
同様の子どもは国内に数万人いるとされる。日本で生まれ、育っている子どもたちが日本国籍がないことによって就職、結婚などの際に受ける社会的不利益は計り知れないものがある。
国籍法は嫡出子と婚外子で法的、社会的な差別があることを前提としていることも問題だ。
事実婚やシングルマザーら結婚の形態が多様化し、国民意識も変わってきている。
最高裁判決によって、法律と現実との乖離がはっきりしたのだから、政府は法律を早急に改正しなければならない。生まれてきた子どもに責任はないのだから。
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