記者会見で引退を表明する、柔道の井上康生=東京都港区
北京五輪柔道男子100キロ超級代表から落選した井上康生(29)=綜合警備保障=が2日、都内で現役引退を正式表明。恩師の山下泰裕東海大教授(50)同席のもと会見した井上は「わが柔道人生に悔いなし」と晴れやかな笑みを浮かべた。今後は“花道”として全日本実業団体大会(6月8日、横浜)に出場。年明けにも英国へ語学留学し指導者の道を歩む。
5歳から全身全霊を注いだ25年で完全燃焼した。身内の不幸にも負けなかった。99年に母・かず子さん、05年には長兄・将明さんが死去。「母、兄は目に見えない力で成長させてくれた。写真に“精いっぱいやってきました”と伝えたら、“ご苦労さん”という声が聞こえた」とうなずいた。
尊敬する山下氏からのねぎらいには感極まった。恩師の称賛は人間・井上康生に及び、「康生を見ていると、“人間って素晴らしい”と思うことがたびたびあった。強さだけじゃないところを目指していた」。鼻をすすって涙をこらえた。
会見後、全日本のときと同じく深々と一礼すると、約150人の報道陣から温かい拍手が起こった。誰からも愛された柔道家だった。