向精神薬「リタリン」を昨年1年間に10万錠以上処方していた医療機関が全国で13施設に上ることが、厚生労働省などの調べで分かった。リタリンは乱用が問題となり、今年1月からうつ病には一切使えなくなったが、専門家は「一つの施設で10万錠単位の処方は通常では考えられない」と指摘する。元院長が医師法違反容疑で書類送検された東京クリニック(新宿区、廃院)と同様に、大量処方が全国に広がっている実態が明らかになった。
厚労省などによると、07年のリタリンの販売実績は約2950万錠。10万錠以上処方をしていたのは、▽東京都6施設▽愛知県2施設▽北海道、宮城、神奈川、静岡、大阪の道府県が各1施設。最も多かったのは東京クリニックの約102万錠、次いで京成江戸川クリニック(江戸川区、廃院)=医師法違反の罪で元院長の懲役1年執行猶予3年が確定=の約37万錠だった。
約22万錠で全国3位だった宮城県南部の精神科クリニックは農村地域にもかかわらず、1日300〜400人が来院。院長は、昨年まで適応症だった重症うつ以外の患者にもリタリンを処方していた事実を認め、「カルテには重症うつと書いていた。軽いうつやストレス性障害の人には有益な薬だったのに、厚労省などが騒ぎ、大事な選択肢が削られた」と国に責任を転嫁した。
約14万錠処方した神奈川県東部にあるクリニック。軽いうつ病でも処方していた男性医師は「効果があるのでついつい使ってしまったが、誰も依存症にはなっていない」と反論した。
東京都多摩地区のクリニックは、約12万錠を処方し、インターネット上で「リタリンを出す」と評判だった。院長は「リタリンには依存も乱用もなく、うちで治療すれば100%治る。処方量だけで判断するのは間違いだ」と強調した。
薬物依存に詳しい医師らは「クリニックで10万錠単位で出すのは常識では考えられない。安易な処方を防ぐため、薬物依存の実態を教えない今の医学・薬学教育を根本から変える必要がある」と指摘している。【精神医療取材班】
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