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社説:アイヌ先住民族 歴史的な前進を評価する

 民族の共生に向け、意義ある一歩である。アイヌ民族を「先住民族」と認め、政府に総合的な施策を促す決議が6日の衆参本会議で全会一致で採択された。これを受け、これまで態度をあいまいにしてきた政府も先住民族との認識を初めて表明した。この動きを歴史的なものとして評価したい。政府は近く設置する有識者懇談会を通じて先住権を具体化する手続きを速やかに進め、アイヌの人々との共存に必要な施策を実現すべきである。

 決議はアイヌの人々を「日本列島北部周辺、とりわけ北海道」に先住し、文化の独自性を有する先住民族と認め、総合的な施策を確立するよう政府に促した。さらに「差別され、貧窮を余儀なくされた歴史的事実を厳粛に受け止めなければならない」と指摘した。

 アイヌの人々への施策では、97年にアイヌ文化振興法(アイヌ新法)が、民族差別的な「北海道旧土人保護法」に代わり制定され、「民族としての誇りの尊重」をうたった。その際、国会で「『先住性』は歴史的事実」とする付帯決議も可決された。しかし、政府は「古くから住んでいる」などの表現を用い、「先住民族」と明言してこなかった。土地補償問題などに波及することを警戒したためだ。

 ところが、国連総会で昨年9月、先住民の権利宣言が日本政府も賛成し採択されたことが呼び水となった。アイヌ民族による権利団体「北海道ウタリ協会」が先住権に関する請願書を国会に提出。北海道洞爺湖サミット前の決議実現への動きが道選出の国会議員を中心に超党派で広がった。

 政府が「先住民族」との認識を表明した以上、国内に加えて国際的にも先住民と認定する具体的な施策を怠ってはならない。アイヌの人々にどんな権利を考えていくかは確かに難しい問題だ。国連の宣言は、先住民に土地や資源に対する権利を認めている。ただ、道ウタリ協会も先住民族の認定と、具体的な権利要求をただちに結びつけてはいない。有識者懇談会のメンバーにアイヌの人々を加え、丹念に合意を目指すことが望ましい。明治政府の同化政策で人口が急減したと言われるアイヌ民族は、北海道の06年調査で、道内に2万3782人が居住。東京などに暮らす人も多い。生活状況を把握するため、研究機関との連携も重要だ。

 また、決議では、アイヌの人々への過去の収奪や文化破壊などのくだりが自民党との調整過程で削除された。歴史認識をどう整理していくかも今後の重い課題である。

 中曽根康弘首相(当時)が「日本は単一民族」と発言し物議をかもしたのは86年。20年以上を経ての決議と政府見解は「多民族国家・日本」について考えるまたとない機会でもある。断じて北海道の地域問題ではない。国民全体に投げかけられたテーマだ。

毎日新聞 2008年6月7日 0時07分

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