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2008年06月07日(土曜日)付

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居酒屋タクシー―これで負担増を言えるか

 なんともあきれた役人の実態が、またしても明るみに出てきた。

 国民から税金を集め、それを無駄なく使うよう配分してチェックする。財政の番人である財務省や国税庁の役人たちが、深夜の帰宅用タクシーから様々な金品を得ていたのだ。

 運転手から少なくとも150万円の現金をもらっていた者が1人、金券が18人、ビールなどの物品は364人にのぼっていた。

 財務省以外でも12の省庁などで金品をもらっていたという。調査の途中なのでもっと増えるだろう。厳格に調査して公表しなくてはならない。

 これは、民主党の長妻昭衆院議員が全省庁に調査を求め発覚した。

 長妻氏らはこれまで、年金管理のずさんさや道路財源のムダづかいを暴いてきた。野党議員の求めで省庁が自らの不始末を調べて報告するとは、一昔前なら考えられなかったろう。「ねじれ国会」で野党の発言力が飛躍的に増した成果だ。これからも政府をしっかりとチェックしてほしい。

 それにしても、長年にわたりタクシーから金品やキックバックを得ていた神経はどうかしている。多くの者がなじみの運転手をつくり、携帯で呼び出して見返りを得ていたのではないか。なんとも情けない。料金以上の金額をタクシー券に記入して見返りを受ける悪質な例がないかについても、厳しく調べなければならない。

 タクシーが乗客へのサービスを競うのは結構なことだ。おしぼりやポケットティッシュなどをもらって気分がよかった読者も多かろう。

 しかし、役所のタクシー券は税金で払われる。私費ではない。金品のサービスを料金の割引へ回せば、経費を節約できる。そう考え、役所としてタクシー側と割引契約を結ぶのが筋ではないか。それをせずに個人が金品を受け取ってきたのは、明らかに一線を越えている。税金を懐へ入れていたといわれても仕方がない。

 財政再建が政府最大の課題になり経費節減が叫ばれてきたのに、役所の体質は一向に改まらない。各省庁での娯楽費の野放図な使い方をみても、役人は税金を自分のお金だと勘違いしているのではないか。これでは、真っ当に仕事をしている人まで国民から疑いの目で見られるようになる。

 高齢化により増える福祉費用の財源をどうやって確保するか。他の削れる予算を福祉へ回したうえで、国民にも新たな負担を求めなければならなくなるだろう。お年寄りの医療保険制度が問題になっており、時間はない。

 そもそも社会福祉の制度は、政府への信頼が基本になければ成り立たない。そうした仕事をこの政府と官僚は担っていけるのか。「居酒屋タクシー」はそのことを突き付けている。

大阪の大なた―聖域、まだ残ってまっせ

 5兆円という途方もない借金を抱えた大阪府の台所をどう立て直すか。タレント弁護士出身の橋下徹知事が、「大阪維新」と名付けた大胆な歳出削減案を発表した。

 とりあえず9年間で6500億円の歳出を減らす目標を掲げ、初年度の今年、1100億円の収支を改善する。府の一般会計予算は3兆円あまりだ。財政再生団体への転落の危機にあるとはいえ、かなりの大なたである。

 人件費の削減で345億円をひねりだした。府民に痛みを強いる以上、職員給与を削ってみせねば示しがつかないということだろう。このほか、私立学校への助成を減らしたり、府有財産を売却したりと、府民の暮らしにかかわる削減策がずらりと並ぶ。

 注目したいのは、これだけ大胆な案をまとめた知事の手法である。

 2カ月前に、まず削減の素案を示した。小学校の35人学級の廃止、青少年会館などの売却、市町村への補助金カット……。あまりの過激さに、府民らから反対の声がわき上がった。

 「あの事業は残せ」「ここは切らないで」。連日、100件近くのメールが知事に寄せられた。応援もあった。事業継続を求める集会も開かれた。

 ある事業を残すのなら、代わりにどこを削るか。そんな税金の使い道をめぐる議論を起こし、優先順位を決めていく。結局、知事は障害者への助成削減や警察官の減員などは引っ込めた。

 府民がこれほど予算に関心を持ち、議論したことはなかったろう。橋下氏の言動には様々な評価があるが、メディアを使った巧みな政治参加を演出したのは、まさに橋下流だった。

 ただし、残念なのは「聖域なき改革」と言っていた知事が、二つの聖域を残したことだ。それは、政府の直轄事業と府議会だ。

 政府が直接実施する公共事業に、地方自治体は応分の負担を求められる。大阪府の場合、第2京阪道路や淀川上流のダムなどがそれにあたる。昨年度、府は365億円を国に支払った。

 これをなぜ、まな板に載せなかったのか。遠慮したのだろうか。

 片山善博・元鳥取県知事は「国から飲み屋の勘定書きを回され、払わされるような仕組みだ」と語る。事業の詳しい内容が分からないため、知事自身が国の出先機関に行って計画書や帳簿をくったという。

 最近、国土交通省が進める淀川水系の四つのダム事業について、有識者らの流域委員会が「待った」をかけた。投資額に見合う効果があるのか疑問が残るという趣旨だ。ここは切り込みどころではないのか。

 第二の聖域は、この削減案を審議する府議会だ。全国5位の高報酬の議員たちが、自らをどう改革するのか。これからが見ものである。

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