結婚していないフィリピン人女性と日本人男性の間に生まれた後、男性から認知された子どもたちの「日本人と認めてほしい」との強い願いが、ようやくかなえられた。
八―十四歳の計十人が日本国籍を求めた二件の訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷は両親の婚姻を国籍取得の要件とする国籍法の規定を「法の下の平等を定めた憲法一四条に反する」として原告敗訴の二審判決を破棄し、原告全員の日本国籍を認める初判断を示した。これを受け、法務省は法改正へ向けた作業を始める方針を固めた。
国籍法三条一項は父親が日本人で母親が外国人の場合、妊娠中に父親が認知(胎児認知)すれば婚姻の有無にかかわらず日本国籍が得られるのに、今回のような生後認知の場合、両親の結婚が取得要件となっている。二件とも一審の東京地裁では「違憲」として原告が勝訴したが、二審の東京高裁は憲法判断を避けながら逆転敗訴となったため上告していた。
最高裁判決は、国籍法三条一項が新設された一九八四年当時は両親の婚姻を日本との密接な結び付きの指標としたことに合理的根拠があるとした。だが、家族生活や親子関係に対する意識変化や実態の多様化を踏まえ、「今日では必ずしも実態に適合しない」と指摘した。その上で、海外の婚外子差別撤廃の流れにも触れながら「差別的取り扱いで子が被る不利益は看過し難く、国籍法の婚姻要件は違憲」と断じた。
十五人の裁判官のうち九人の多数意見である。ほかに三人が違憲状態を指摘したが、うち二人は立法措置での対応を求めて請求を退けるよう主張した。合憲は三人だった。
事実婚のカップルが増えるなど家族観の変化や国際化が進展している。判決は時代の変化を反映して婚外子差別の不合理さを真正面からとらえ、親の都合で被る不利益から積極的に子どもたちを救済しようとする判断といえよう。
国籍の取得は基本的人権の保障を受ける上で重要な意味を持つ。日本国籍が認められない子どもたちは、差別やいじめに悩んできた。将来への不安も募る。原告の中には、同じ父母なのに胎児認知された妹と国籍が異なる子もいる。やりきれない思いは察して余りある。
国内で数万人ともいわれる同様な境遇の子どもたちにも、明るい光が差してきたといえよう。課題もあるが、罪のない子どもたちの将来のため、政府や国会には判決を重く受け止め、早期の法改正を求めたい。
二〇〇七年の合計特殊出生率(女性一人が生涯に産む子どもの推定人数)は一・三四で、〇六年を〇・〇二上回ったことが、厚生労働省の人口動態統計(概数)で分かった。過去最低だった〇五年の一・二六から二年連続の上昇だ。
少子化対策が課題になっているだけに、わずかでもアップしたことは朗報に違いない。しかし、出生数そのものは前年より約三千人減り、人口も〇五年以来、再びマイナスに転じた。少子化に歯止めがかかったわけではなく、先行きは楽観できないといえよう。
統計によると、年齢別の出生率は十代、二十代では前年より下がったが、三十代以上は上昇した。三十五―三十九歳の上昇分が最も大きく、全体の上昇につながった。
厚労省は、団塊ジュニア世代を中心にした三十代後半の女性が、「四十歳を前に」と“駆け込み”出産したことが背景にあると分析する。人口が多い三十代半ばから後半の女性が出産を終えると、その後は出生数は減少の一途とみられている。
政府の社会保障国民会議の「少子化・仕事と生活の調和」分科会がまとめる中間報告の骨子案が先日、明らかになった。出産や育児、就学前教育などの支出が国内総生産(GDP)に占める割合が、日本は欧州諸国に比べて「著しく小さい」と指摘し、少子化対策への優先的な財源投入を求めた。
政府は新たな少子化対策として「ワークライフバランス(仕事と生活の調和)」を掲げ、仕事と子育ての両立可能な労働環境の整備を打ち出している。もはや掛け声だけではすまない。保育サービスや育児休業浸透などに思い切った財政支援を行い、働きながら子育てをする親を支えていくことが必要だ。
(2008年6月6日掲載)